Story : 詩と作品
連載55回 塔…
塔の下で
ボールが飛んでった。黄色いボールが。
ちょっと勢いよく蹴りすぎたかな。
飛んでったきりどこにも見えない。
ならば探しにいってみよう。
探そうと思って、自転車をこいでいるうちに、
ずいぶん遠くまで来てしまった。
気付けば傍らには高い塔が。
すると反対側から同じような自転車が。
その自転車に乗ったおじさんは
「黄色いボールをありがとう。お礼にこれを上げよう」
と赤いボールをくれた。
「あの黄色いボールは?」
「君の大事な人がいるあの塔で、君のことを待っているよ。
今すぐには会えないけどね。」
振り向くとそびえる塔。
何の塔か聞こうとしたら、おじさんの姿はもうなかった。
今日もいつものような、青々とした芝の上。
もらった赤いボールは、無くさないように大事に使おう。
ボールとしては寂しいのだけれど。
「塔の下で」
宮島永太良