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アートソムリエ 山本冬彦さん 絵との関わりを語る… 後編

山本冬彦さんと宮島
 

◇山本冬彦(Yamamoto Fuyuhiko)さんプロフィール

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アートソムリエ/隠居コレクター
1948年 石川県小松市出身
東京大学卒業後、保険会社などで40余年間のサラリーマン生活を送る。その間、趣味として毎週末には銀座や京橋界隈のギャラリー巡りをし、若手作家の作品を購入し続けたサラリーマンコレクター、集めた作品は1,700点以上。2010年には新宿の佐藤美術館で「山本冬彦コレクション展:サラリーマンコレクター30年の軌跡」を開催。現在も毎日のギャラリー巡りとコレクションを続け、アート普及のため講演や活動、最近は若手作家の発表の場として数々の企画展を実施。雑誌や新聞などの取材執筆のほか、毎日のようにfacebookやブログでアートファンへの情報提供を行っている。主な著作は「週末はギャラリーめぐり」(ちくま新書)。   


前号からの続き…

月刊宮島永太良通信編集部(以後M):山本さんが、若い作家たちを応援するため初めて関わった企画を教えてください。
山本冬彦さん(以後Y):2012年9月に銀座三越で開催した「山本冬彦が選ぶ珠玉の女性アーティスト展」が最初です。2012年銀座三越が新しくなり、そこにできた画廊を現代美術の若手作家の展示場所にしたいと三越の担当者から頼まれ、僕が選ぶ1980年以降生まれの女性若手作家26名を集め、第1回「山本冬彦が選ぶ 珠玉の女性アーティスト展」を開催しました。これがきっかけとなり今は割と有名になった人もいます。
また当時、若手がデパートでやるのはほとんどありえないことで、作家は「三越銀座でやれる!」と言って喜んでくれましたが、僕は終始ボランティアとして三越側との対応等でとても大変でした(笑)。しかし、結果的には業界でも話題になり、これを機に画廊さんから僕が作家を選んだ企画展をして欲しいという依頼が増えました。そして、三越と同じテイストの企画展を銀座のギャラリー枝香庵(えこうあん)さんから頼まれ、翌年2013年5月にパート1、7月にはパート2として開催しました。

「山本冬彦が選ぶ 珠玉の女性アーティスト展」ポスター

M:企画展を行う場合、ギャラリーとの関係性が重要になると思いますが、枝香庵の他には、どのようなギャラリーとお付き合いがあるのですか?
Y:やはりギャラリーさんとは相互理解、意思の疎通ができていないと企画展そのものが成立しませんから、信頼関係が大切になります。特に若手作家に発表の機会を提供し、作家に有利な条件で実施してもらうという点を理解してもらえる画廊さんに限定しています。東京では、麻布十番のパレット・ギャラリーや新宿区大京町のアートコンプレックスセンター(ACT)などです。あと横浜のギャラリーARK、金沢のカフェギャラリーMusse(ミュゼ)や京都の「ちいさいおうち」など地方のギャラリーでも開催しています。

M:銀座のギャラリーとは雰囲気の違うACTとはどのように知ったのですか?
Y:ACTでは主にイラストとか劇画とかアニメのような作品を展示し、若い人が集まるようなギャラリーだったので僕は知りませんでした。でも、たまたま知り合いの作家が個展をやるので観に行ったら、面白いスペースだと思ったし、住宅地の奥にあり昼に人は来ないけれど夜までやっていたので勤め帰りの若い人や学生が観に来るらしく、銀座とは作家も客層も違うので新たな可能性を感じました。

山本冬彦さん

M:銀座とは違う可能性ですか?
Y
:実は、2010年渋谷西武で「カワイイ」をテーマにしたアートを広く公募した展覧会があり、僕も審査員を務めました。大賞は全体で決まるけれど、僕が個人賞に選んだ方がいまして、性別を含め作家の情報を何も知らず作品を見て決めたのですが、表彰式で会ったら男性のイラストレーターさんでした。実は、それまでの僕は銀座でファインアートを観ていたのでイラストとはあまり縁がありませんでした。でも、公募展には様々なアート作品が集まっていて、その作品との出会いで「イラストレーターにも上手い人がいる!」と視野が広がった気がしました。ところが、イラストは商業アートでビジネスの相手は企業が主、ファインアートは個人に画廊を通して1点物の作品を売る世界。同じ絵を描いても全然世界が違い、そのうえファインアートは銀座中心で商業アートは渋谷・新宿など銀座以外と棲みわけしている感じを受けました。
つまり、同じ美術だけれど、発表する方法も観る場所も分断されている気がしたのですが、上手い人はどちらにもいる。たまたま渋谷西武が行った斬新な公募展で思わね出会いがあったのを機に、僕が関係した銀座のギャラリーでファインアート、イラストの垣根を越えた展覧会を行ったのです。だって、下手なファインアートより上手いイラストの方が良いし、多くのコレクターは銀座しか回っていないから、そういう人たちにイラストを観る機会を設け、絵のジャンルを越えて作品を観て欲しかったのです。その流れを繋いで意識的に銀座系の作家も入れACTで、逆にACTの面白い作家を入れて銀座で、というように作家や場所をクロスした新たな方向性を持った企画展を始めました。

ギャラリーでの展示

M:それは美術界の既製のタコツボを壊していることに通じますね。
Y:そうです。何度もお話ししていますが、これまでの日本の美術界は全てタコツボだったと言っても過言ではありません。日本画は日本画、油絵は油絵、イラストはイラスト、それらを展示するギャラリーも専門店。ある時期までそれで良かったけれど、現代アートが出てきて、アートフェアとか様々なイベントが始まり、ジャンルに捉われずに観るお客さんが増え始めました。つまり、コレクター(観る人買う人)はタコツボから出ているのに、まだタコツボに留まっている作家や画廊も多いので、僕が企画展を行う時はジャンル越えを狙い、10人なら10人の展覧会でも日本画、油絵、イラスト等様々なジャンルの作家を招きます。そして、彼らには「普段は自分のホームグランドで戦っていて良いけれど、それじゃ今の時代に合わないから、たまに異業種と他流試合することで刺激と勉強をして欲しい」という僕の考えや絵に対する思いを必ず伝えます。

M:それは東京だけに限りませんか?
Y:はい、最近では金沢や京都での企画展の時も作家は地元半分、違う地域半分の方を招いています。そして、東京でやる時も必ず地方の人を入れて作家をミックスします。そうすることによって作家は他の地域の作家とふれあい、それぞれ触発され新鮮な刺激を受けるし、コレクターは様々な土地で生まれた作品と直接向き合えると考えるからです。

山本冬彦さんと宮島

M:では、コロナウィルスで今秋に延期した「アートブルーム アートソムリエ 山本冬彦が選ぶ若手作家展」で、その素敵な時空間をミーツギャラリーで私たちも体感できるわけですね。
Y:はい、ご期待ください(笑)。

M:今日はどうもありがとうございました。

終わり

「アートブルーム - アートソムリエ 山本冬彦が選ぶ若手作家展 -」
 ■ 展覧会概要 会期:2020年9月22日(火)〜10月3日(土) 
会場:ミーツギャラリー/Meets Gallery 12:00~19:00  日曜休廊
〒104-0061 東京都中央区銀座6-7-18 デイム銀座10F
TEL:03-6274-6633  FAX:03-5537-5122
■ 出展作家
蔵野春生/鈴木明日香/小林 源/奥谷 葵/石松チ明/そらみずほ/高久 梓/中田日菜子

 

(構成・撮影 関 幸貴)

 
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