◇新連載 第4回 宮島永太良とアートが気になるインタビュアーの対話
ここからアートステーション 第4回
Q=アートが気になるインタビュアー/A=宮島永太良
Q:前回までは人の顔の中の「目」についてお話いただきました。それでは、今回は同じ顔の一部「耳」についてです。
A:人間にとって耳からの情報、つまり聴覚情報は目からの情報に次いで多いのではないかと思います。
Q:その通りでして、前回、人間にとって目からの情報(視覚情報)が約8割という話をしましたが、耳からの情報(聴覚情報)はそれに続き、ぐっと比率は落ちますが約1割という研究結果も出ています。
A:それも納得できます。ただビジュアル的に言えば、耳は目ほどその人なり、そのキャラクターなりを象徴させているとは言えませんが。例えば漫画とかイラストで、山とか木とかを擬人化する場合、目は必ず描かれるのですが、耳はほぼ描かれません。そうした意味では隠れた主役なのかもしれません。
Q:耳は音を伝える所、というのは言うまでもありませんが、もう一つ、体の平行感覚を伝える役割も持っていますよね。
A:三半規管の働きですよね。そこには液体が詰まっていて、体の傾きとともに動くといいます。これで思い出すのが乗り物酔いです。
Q:車や電車に乗ってゆらゆら揺れると、当然、耳の三半規管にある液体も揺れます。目で見ている景色は平行なのに、その感覚のずれから来るのが乗り物酔いだと言われます。
A:私はこれを聞いた時、「では目をつぶれば酔わないのではないか」と思いましたが、それは乗り物酔い防止の一方法でもあるようです。
Q:確かに車や電車に乗っても、眠っていれば酔いを感じることもないでしょうね。ところで宮島さん自身は乗り物酔いはすることはありますか。
A:私の場合、電車やバスではほとんどないのですが、乗用車に乗ると酔うことが多いです。もしかしたら乗用車はバスほど広くない分、耳の中の液体が動きやすいのでしょうか。
作品名 青うさぎ 1998年制作 木・粘土・アクリル 29.7cm × 21cm
Q:そういえば先ごろ宮島さんはモンゴルに行かれた時、道路事情がとても悪く、乗っていたバスがどんどん揺れるという話でしたが、そうした状況でも酔いはありませんでしたか。
A:あそこまでなると「酔っている場合ではない」という感じですかね。先ほどの仕組みで言うと、体も揺れて、目で見た視界も揺れているわけですから、結局目も耳も一致してしまっているのではと思われます。私の他にも酔ったという人はいませんでした。
Q:なるほど、そういうこともあるかもしれませんね。もちろん人によって違うでしょうけど。話を「音」に戻しますと、やはり音を捉える「聴覚」は年齢とともに衰えて来るように思われます。私たちはまだぎりぎりの世代かもしれませんが、どうしたら音をできるだけ拾えるようでいられますかね。
A:やはり小さな音に耳を傾ける。遠くの音を聞こうとしてみる。視力と同じで、遠くに意識を向けることは大事ではないでしょうか。日常の、音のなさそうな時間、場所にいても、ゆっくり耳を澄ませば、鳥や虫の鳴き声、遠くの車の音なども聞こえて来ることがあると思います。常に大きな音ばかり聞いていると、そうした感覚が欠落してしまう気がします。
Q:最近はヘッドホンステレオの普及というか一般化もあり、大きい音を聞きなれている人も多いのではないかと思います。
A:私も思い当たることがありました。昔個展を開催していた時、初めて見る若い女性のお客さんが入ってきてくれたのです。それでその人に「どこでこの個展を知りましたか」ということを何回も聞いたのですが返事をしてくれません。よく見るとイヤホンをしていて、その後目が合って初めて向こうも気づいたという感じでした。おそらくよほどの大音量で音楽を聴いていたのでしょう。
Q:イヤホン世代は気をつけないといけませんね。そういえば宮島さんはよく「まちがいさがし」の作品を作られており、中には「目の運動まちがいさがし」なるものもありますが、現在新たに「耳の運動まちがいさがし」なるものも開発中とお聞きしています。
A:確かに考えている最中です。出来上がりましたらどこかで披露したいと思います。
つづく