Road : つれtakeロード
異空間としての大阪…
宮島永太良が成人して初めて大阪へ行ったのは、意外に遅く20世紀も末に近い1996、97年くらいであった。 その前には、小学生の時に家族旅行で1回、高校生時代に授業の有志で1回行っただけで、双方とも日帰りだったという。 それまでは大阪城と万博公園がうっすら記憶に残るのみで、大阪の大きな印象は心になかった。 しかし、成人してから行った大阪は、最初が大阪港だっただけに、海と降り注ぐ太陽の光がなす海洋のイメージを持っていた。 その後、通天閣を初めて見た時は、名前は聞いたことのあるものの、それが通天閣とは知らず「なんて味わいのあるデザインのタワーなんだろう!」と感動したらしい。 その頃はまだ赤かったそうだが。
今回、宮島が初めてそのような印象を持った大阪の地を、現地から振り返ってみる。 関東の人からして、大阪の玄関と言えばまず大阪駅・梅田駅であるが、そこを通る地下鉄御堂筋線で、前回の淀屋橋へ。 そして次の本町で降りて南北線に乗り換えると、西南方面の大阪港・コスモスクエアまで行ける。 降りたのはコスモスクエアの一つ手前、大阪港駅。 まず目に入るのは大きな観覧車だ。 その観覧車目指して3、4分ほど歩くと、天保山マーケットスクエアにたどり着く。 安治川をはさんだ向こう岸にはユニバーサルスタジオジャパンがある場所だ。 名前にある天保山は、このマーケットスクエアの近くにある山の名前だが、土を積み上げて人工的に作った山で、標高はなんと4.53m。 2014年、仙台の日和山が標高3mと認定されるまでは「日本一低い山」であった。 宮島が最初にここを訪れた時も「日本一低い山」との表示がとても印象深かった。 そんな山を見下ろすかのような観覧車と、「海遊館」という水族館がプレイスポットとなっている。 「海遊館」は世界最大の水族館と謳われており、太平洋の海を再現した水槽は、観光客からも「異空間」としても評価が高く、ジンベイザメやラッコが見られることでも有名だ。
大阪港から一つ戻った駅・朝潮橋には、宮島の思い出の場所がある。 最初にここを訪れた時、強烈な印象を受け、かつその風景を一目で気に入り、帰ってからも大阪のことを考えると、この場所を思い出してばかりいる時期もあった。 かつて大阪の住民に「大阪で好きな場所は?」と聞かれた時「朝潮橋」と答え、その大阪住民をコケさせた、ではなく意外に思わせたことがあった。 「なんでそんな場所が好きやねん?」という感じなのだろうか。 観光で行くような場所でもないようだし、関東あたりの人が好んで行くことも考えにくいらしい。 しかし、そこでは一生忘れられない原風景が築かれたといっても過言ではなかった。
特に気になったのは、中央体育館である。 よく見ると小高い丘そのものが体育館になっているのだが、丘を掘り出して中に体育館を作ったようにも、あるいは体育館を作った上から土をかぶせたようにも見える不思議なものだ。 またの名を「八幡屋公園」ともいうが、つまり丘の内側が中央体育館、外側が八幡屋公園という構造だろうか。 隣にある大阪プールも、ほぼ同じ作りになっている。
今回、久々にこの中央体育館=八幡屋公園を、地上から頂上まで登ってみた。 螺旋スロープが頂上まで続いている独特な作りである。 螺旋独特の効果だが、今がどの方向にいるのかわからなくなってくるのが不思議である。 頂上まで向かう不思議な緊張感は、かつてを思い起こさせる。 そしてようやく頂上にたどり着いたが、そこからの眺めはあの頃とほぼ変わらない絶景だ。 幸いにしてまわりに高すぎる建物がないだけに、ここからの眺め、特に大阪港方面の眺めは白眉と言える。 川の多い大阪の風景は、陸地続きでありながら島がいくつもあるような印象を受ける。 なぜか昔、ここからの眺めの中で「車が空を飛んでいる」という印象があったのだが、実際そんなはずはなく、今回その原因がわかった。 それははるか遠くに見える超高架の高速道路であった。 ビルよりも高い場所を走る車たち。 それは道路が透明(透明高速道路?) ならば、まさに飛んでいる車だ。
15年以上ぶりに来た場所は、時の流れを感じさせてくれた。 はじめてここへ来た後は、大阪に来る機会も増え、さまざまな場所に行った。 マルタのPRショップが大阪駅前にあったこともあり、一時期は本当によく来ていたし、大阪大学付属病院に作品を寄贈させてもらったこともあった。 2005年に淀屋橋の個展で来た時は、 ちょうど阪神タイガースが優勝した時であり、たまたま道頓堀付近にいて、タイガースファンで盛り上がる状況を生で見た。 その時の熱狂は最高潮で、もともと別に阪神ファンというわけではなかったにも拘らず、地元の人に感情移入して、思わずタイガースを応援してしまったほどだった。 しかし大阪にはまだ行ったことのない所がたくさんある。 鰻、お好み焼き、きざみうどんの味を記憶にとどめながら、大阪の風景は、今後もまた新しい顔を見せてくれそうだ。
(文・写真 / 宮島永太良)