TOPTalk : 対談

宮島永太良とチバエリさんの対談 後編

 

◎チバエリさんプロフィール

space
チバエリさんspace
フォトグラファー 
1979年8月10日神奈川県茅ヶ崎市生まれ、A型。
東京デザイナー学院、東京写真学園卒業。
2児の母。

space
 

チバエリさんと宮島永太良が、海、写真、アートについて語り合った!


チバエリさんと宮島永太良

前号 ► からの続き

宮島永太良(以下 Q):チバさんが生まれ育ったのは、太平洋に面した湘南の茅ヶ崎。  日常的に海が見られますが、どのような光景に惹かれますか?
チバエリさん(以下A):オレンジ色に輝くサンセットの浜辺、開放感のある青い海と空、多くの方は、そうした光景を写真に残します。  もちろん、私も美しいシーンは好きです。  でも、ずっと海の近くに住んでいる自分だけの目で捉えた「キレイとは違うけれど、これも海だよ!」っていう光景に惹かれます。

Q :海をよく見れば、確かに美しいだけではありません。  ところで、具体的にどんな光景を撮影しているのですか?
A :水族館の「クラゲ」もそうですが、浜辺に打ち上げられ、ハエがブンブン周囲を飛んでいる「魚の死骸」とか、人が見ようとしないシーンを撮っています。

チバさんの作品
photo by eri

Q :イメージ的に考えれば、それは海が持つもうひとつの風景であり、裏側になり、決して美しい光景とは言えません。
A :海って、「生命誕生と終焉の場所」だと思います。  だから、明るく美しいイメージだけではなく、「終わりの光景」も見て、思いを深めて欲しいです。

Q :言い方を変えれば、海は「生命の入口であり出口」、大きく見れば美しいけれど、現実的に細部を見つめるとそうではありません。
A :そうです。  海岸は海藻やゴミで汚れていたりするし、魚だって死ぬ、海沿いを散歩していて生臭いこともあります。  ただし、そうした現実を汚く撮って見せるのではなく素材として用い、私としては不快でないアート作品として発表できればと思っています。  難しいですが、試行錯誤する楽しみもあります。

Q :絵にも似たような話がありますよ。  18〜19世紀にかけて活躍したイギリス人画家ターナーは、当時としては評判の良くなかった霧の中の光景を題材にした作品を次々に発表。  お陰で霧の悪いイメージを払拭したと言われています。
A :ターナーのように「負」の見方を変え、撮れたら良いでしょうね。  ひょっとすると、先程お話した思案中のワンポイントの作品にその思いを託せるかもしれません。

Q :ワンポイントを使えば斬新な写真になりそうです!
A :やはり、あくまでも自分のフィルターを通して作品化したいですね。

Q :そうだ、いま思い出しました。  今夏の個展「6月の卒業式」にも出品しましたが、チバさんとは逆に絵の一部分に自らモザイクを描き込んで発表した作品がありました。

個展「6月の卒業式」会場

A :その作品は拝見しました。「何だろう?」と、思案したのを覚えています。

Q :ある意味、目立たせたいところを自分なりに強調した感じですね。
A :表現としてのモザイクってユニークですね。  でも、こうして宮島さんの写真作品を拝見していると、切り取り方にどこか女性を感じます。

Q :それは嬉しいですが、理由は?
A :まず雰囲気。  また、女性は宮島さんがグラスの底を撮ったようなクローズアップが好きだったりするからです。  ところで、宮島さんは今後どのような作品を制作したいと思っていますか?

Q :現時点では決めかねていますが、これからの大きなテーマとしては、「日常の中に存在し、見過ごしてしまいそうなシーン」に着目して行こうかなと、考えています。  例えば、かつて住んでいた小田原の家には、廊下に「目」が落ちているのを発見したことがありました。
A :ええっ〜、見る「目」! それとも人形とかのですか?

Q :いいえ、「木目」です。  子どもはひとりだけだったので、私だけが身長差で気が付いていたのですが、今でも鮮明に覚えています。  どうも一度気になると頭から離れない性分のようです。
A :そうですか、木目でしたか。良かった(笑)。  そう言えば、昔の和室の天井って、色々なモノに見え、想像力を掻き立てられました。

Q :あと、心霊写真を撮ったことがありますよ。  もちろんいたずらでしたが、見せた相手がとても驚いたので、すぐにネタ明かしをしました(笑)。

宮島永太良

A :面白いエピソードが色々ありますね。  ところで、宮島さんはどんなカメラで撮影していますか?

Q :コンパクトのデジタルカメラです。  時々、スマホも使います。
A :スマホはナカナカ優れモノ、良い感じに写る時がありますね。

Q :同感です。  ここで話題を変えますが、チバさんとしては、ご自分の子どもたちに写真とか絵をやってもらいたいと考えますか?
A :それはないです。  ただ、全く教えていませんが、14歳の息子とは違い、10歳の娘は小さい頃の私と同じように絵を描いています。

Q :そうですか!
A :実は、私の実家は喫茶店をしていて、弟とも歳が離れていたので、小学校低学年までひとりっ子のように育ってきました。  だから、保育園や小学校帰りにお店にいることが多く、店内での遊びと言えば、本やマンガを読み、絵を描くこと。  片隅で静かに黙々と描いていた記憶があります。  それを教えたワケでもないのに、私と同じように娘がストーリーを考えながら描いているのには驚きました。  絵が好きなようです。

Q :遺伝ですか?
A :そうかもしれません(笑)。  子どもたちは、私が写真をしているのは知っていますが、ただそれだけ。本当に娘の行動は私に似ていて驚きます。  それも小学校に入ってからハッキリしたので、アトリエに通わせようと思っています。


チバさんの写真作品
photo by eri

Q :先が楽しみですね。
A :娘が絵で何かを見つけてくれたら嬉しい。

Q :そう言えば、近頃の教育では、以前より算数や国語だけでなく美術や音楽等の芸術面でも評価されると聞きましたが?
A :そうかもしれません。  私が思うに学校の中だけじゃなくて、子どもたちが外での活動に興味があれば、それはそれで認められるのかもしれません。

Q :最近、校外活動でも単位が貰える高校があるとも聞きました。  昔より、色々なジャンルの勉強がしやすくなったのは事実のようです。
A :あるジャンルに対してタブー視する傾向も少なくなったように思えます。

Q :確かに昔の方が決めつけも多かったかもしれません。
A :だから、現在の方が絵や写真等のアート系に関わる人々は全般的に動きやすいかもしれません。  ただし、情報量があまりに多くてオリジナリティを表現するのが、より難しくなったでしょうね

Q :アートを取り巻く環境も時代でかなり変化したと思います。  イソップ童話に「アリとキリギリス」と言うお話があり、かつては、「働き者と怠け者の対比」の解釈でした。  ところが現在では、「冬にキリギリスがコンサートを開く時、アリがたくさんの贈り物を持ってやって来た!」に変わってしまったそうです。  これは、人々のアートに対する認識の変化の表れではないでしょうか。  だからこそ、表現活動の可能性が増え、新しい展開も考えられます。  楽しみですね。  チバさん、今日はありがとうございました。
A :こちらこそ、ありがとうございました。


チバエリさんと宮島永太良

(文・写真 関 幸貴)
Copyright © 2010- Eitaroh Miyajima. All Rights Reserved.