Road : つれtakeロード
■ 好評連載!
都電沿線の秋を巡る…
荒川線の小さな旅 前編
程良い暑さが残る9月11日の午後、宮島永太良は久々に都電荒川線に乗った。 スタートしたのは「早稲田駅」。 ここは、かつて宮島が大学で通った地だ。 「あの頃も時々乗っていましたが、せいぜい3〜4駅くらいしか行っていません」。 その後は、作家仲間の関大介氏の個展を見に行った時に「学習院下駅」で降車したこともあったりして、時々は世話になるのだが、この日は初めて終点まで乗ってみることに決めた。
昭和の学生街の香りを色濃く残す早稲田駅を出発、まず立ち寄ったのが「鬼子母神前駅」。 ここは名前の通り鬼子母神がある。 ここで注意しなければならないのは、この駅に地下鉄副都心線の「雑司ヶ谷駅」が隣接していることだ。 都電荒川線にも「雑司ヶ谷駅」があるが、それはこの鬼子母神駅の一つ先になる。 鳥居をくぐると、昔ながらと言った感じの神社があると思ったが、中心は寺社のようで、その本堂までの参道の脇に複数の神社があるという形だ。 また、ここの鬼子母神の字は駅名とことなり、「鬼」の角が取れている。 つまり、改心した善の鬼が祭られているらしい。 そして、目を引くのは境内脇にある駄菓子屋、創業1781年の「上川口屋」。 これぞ昭和といった店作り、懐かしい商品が並んでいる。
宮島は昔を思い出す。
「自分が子供の頃に買ったようなお菓子がまだ売られているのは、ちょっと驚きです」。
お寺の境内で駄菓子を片手に遊ぶ子供たち。
最近見かけない情景だが、この場所に来た今の子供は、ごく自然にそのような光景を形作ってくれるかもしれない。
次に降りたのは「庚申塚駅」。 なんとここはホーム内に和風喫茶がある。 店の名前は「甘味処いっぷく亭」。 店頭のメニューを見ると、茶菓子に交じり、蕎麦などの軽食もある。 居心地のよさそうな店は、そのままホームとセットの店であり、場合によっては休日の数時間をこの店で過ごすことも可能かと、考えれば、ビルではないがここに「駅ビル」の原点を見た感じがした。
レトロな中にも新鮮さを感じさせてくれる荒川線をさらに乗り継ぎ、次に降りたのは「飛鳥山公園駅」。 駅から一分ほど歩き、小高い丘を登って行くと、一瞬江戸時代にタイムスリップしたのではないかと思えるのが、飛鳥山公園である。 螺旋状で頂上まで行く坂が印象的だ。 歩道に沿って進んで行くと、知らぬ間に、あたりの景色を見下ろす感じになっていた。 王子駅を望む方向を見ると、これまた昭和の遊園地を思わせるモノレール「アスカルゴ」が上がってきた。 公園から王子駅入り口まで、またその逆を運んでくれるのだ。 運賃はゼロ円。 運転手もいない。 中では女優の倍賞千恵子さんが、この付近の案内をアナウンスした声が聞ける。 ものの1分もすると王子駅入り口に着いたので、しばらく付近を散策していることにする。
駅西口には、先ほどの飛鳥山公園のイメージを引く遊歩道・親水公園があった。 横を流れる音無川まで下って行くことができ、そこには昔ながらの水車もあった。 以前、宮島がここに来た時、初めて来たとは思えない感触があり、その風景は後々まで焼き付けられたものだった。 何故だろうか? 実はこの近くの滝野川という地域には、宮島の親戚が住んでいるという。
「その親戚の家には訪ねたことはないと思っていたのですが、もしかしたら物心つくかつかないかの頃 、家族に連れられて来た可能性はあるし、この王子駅に立ち寄った可能性も十分あるのではと考えるようになりました」。
これは、宮島が感じた一種の「デジャブ」は、記憶外の記憶として生きていた可能性が十分ある。
そんな不思議な体験を装飾するかのように、小川にかかる橋は、今日もこの王子の町の一角に風流を添えていた。
都電荒川線の小さな旅はまだ続く…
(文・宮島永太良 写真・関幸貴)