TOPReportage : イベント報告

2020年4月末で幕を閉じた“JAZZ SPOT J”、
そこでの最終展示を終えた宮島永太良が思いを綴った…

昔から、タレントのタモリ氏が大好きだった。「なるほど」と思わせるトーク、「密室芸」といわれる、ブラックユーモアを基本にした笑い。それらを見て勇気づけられることすらあった。

Jにて

私が新宿のライブハウス「J」に初めて行ったのは2002年9月ごろだったと思う。知人のまた知人のアーティストから、ここでの個展の案内をもらい、見に行った時だった。一人ではあったが、初めて開いたドアは全く重くなく、ごく自然に中に入れた。私のような一人客も多かったと思うが、かなり賑わっていた。確かシンガーの斉藤こず恵氏のライブだったと思う(昔「山口さんちのツトム君」を歌った子役として有名)、そして壁面を見た。作品の中身よりも、そこに絵があるシチュエーションにインスパイアされた感じだった。「自分もここでやらせてもらえたら」とその日のうちに思った。そして早速、店のスタッフに聞いてみたら、なんと店長がオーケーしてくれたのだ。ただ、すでに予約が満員ということで、ちょうど1年後なら展示できるということだったが、迷わず申し込んだ。

Jにて

私も詳しくはないがジャズは好きで、よく聴いていた方だった。この当時はピアノのデューク・ピアソンとかケニー・ドリューとかが好きだったと思う。また幼い頃、家で古いレコードを勝手に探し出し、ソニー・ロリンズとも知らずに聴いて満足していたこともあったが。なのでジャズの流れるこの空間に、自分の作品が展示されること自体が嬉しかった。そして店の案内を見て、早稲田大学ジャズ研究会が、そしてあのタモリ氏が関係していることを知る。自分の出身校の先輩の店だったということも一つの縁だし、タモリ氏に関しては「えー!」という感じではむしろなく「あー納得した」という感じだった。

Jにて

そんな様々な縁に導かれ1年後の展示をひかえる。ジャズの中でも特に好きな数曲を選び、それを絵にしてみたいと思ったのだ。実はその少し前、よく行っていた画廊で「ジャズアート」と言うタイトルの展覧会があったので見て来たが、それは昔のモダンジャズのレコードジャケットを、そのままキャンパスに描き写した作品が並んでいた。「ジャズアート」と言いたいのはわかるが・・・私の場合、その楽曲が持つ様々なイメージを抽出し、絵に再構成しようと思った。選んだ曲は「Fly Me to The Moon」「Take the A Train」「When You wish upon a Star」「Blue in Green」など、歌詞のある曲もない曲もあった。

Jにて

2003年9月、ジェイでの初めての個展「JAZZ NIGHT」を開かせていただいた。ここでは画廊でやる個展とは別に、様々な出会い、かけがえのない出会いもあった。ジャズのミュージシャンとこんなに多く久しく知り合えたのも初めてだった。そしてこの店のオーナー、バードマン幸田氏と初対面したのこの時だった。幸田氏は初めての私のことも大変歓迎してくださり、ジャズ界のこともいろいろ教えてくれた。早大ジャズ研でタモリ氏を始め、今や世界で活躍しているミュージシャンの方との思い出が、幸田氏の生涯の宝なのだと分かった。

Jにて

そんな初個展から10年以上が経過していたが、私はだいたい毎年展示の機会をいただいていたばかりか、知人のアーティストもどんどん同店の展示仲間となっていった。ライブにも何度も足を運んだ。どのミュージシャンもステージの終わりに必ず流す「C Jam Blues」を聴くたびに、「J」のライブの不思議な魅力に吸い込まれていく。タモリ氏にお会いしたことも何回かあった。決して公にはしていなかったが、取締役会ということで年に何回か来店されていたのだ。テレビに出ている時と、姿もキャラも変わらない氏をますます好きになった

Jにて

世の中どんなに変わっても、この「J」だけは変わらないでほしい(もちろん新しいミュージシャンやアーティスト、お客さんは加わっていってほしいが)そう思いながら、2020年4月もまた個展の期間をいただき、準備していた。「J」の閉店を突然知ったのは、作品取り付けに行く数日前だった。「私が最後の美術展示になってしまった」新型コロナウィルスが世界を蔓延し始めたその時期、夜の飲み屋やライブハウス等は感染の危険から自粛を要請され、お客さんも遠のかざるを得なかった。「Jに行きたくても行けない」そんな人がかなりいたと思う。

Jにて

結局私が展示した4月は、1日と2日の二日のみの営業となった。今回私は、ここでの初めての個展を思い出し、「JAZZ NIGHT」の作品を何点か展示させていただいた。こうした事情から見る人は少なかっただろうが、それは問題ではなかった。ラストとなった自分が「J」に残せるもの。それはこの店と自分の大事な記録。そう思ったのだった。

                                   宮島永太良

 

*写真:2020年4月1日作品搬入時に撮影  Photo by Daisuke SEKI

 
 
 
by Sekikobo

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