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江戸東京たてもの園

寒さも厳しい2月中旬、宮島永太良は都立小金井公園の中にある「江戸東京たてもの園」を訪れた。ここは江戸時代から昭和中期にかけての歴史的価値の高い建築物で、保存が難しくなったものを移築し、建物の博物館として保存・展示している場所だ。その数30棟。両国にある江京博物戸東館の分館として、本館と同じ1993年に、約25キロ離れたこの小金井の地に開園したものであり、敷地面積は約7ヘクタールと広い。

江戸東京たてもの園

現在館長を務めるのは、建築家の藤森照信氏であり、かねてより赤瀬川原平氏らとともに、路上観察・考現学の普及に努めたことでも知られている。また、園のマスコットキャラクター「えどまる」は、青虫がモデルになっており、宮崎駿氏によってデザインされたものだ。

江戸東京たてもの園

JR東小金井駅北口から徒歩約15分。小金井公園の入り口からしばらく歩くと左手に、大きな和風建築のエントランスがある。このエントランス「ビジターセンター」の建物も旧光華殿を移築したものである。1940年(昭和15年)に皇居前広場で行われた「紀元2600年記念式典」の際に作られた式殿であり、翌年にはすでに現在の場所に移され、武蔵野郷土館の展示室となっていたものが、さらに1993年、「江戸東京たてもの園」の開園時からビジターセンターとなった。敷地は、「西ゾーン」「センターゾーン」「東ゾーン」に分かれるが、それぞれ和風・洋風、さまざまな建築物が点在している。この日は近くの小学校の児童たちも見学に訪れていて、その古の建物に、子供たちも興味津々であった。

江戸東京たてもの園

面白いのは、主に東ゾーンに多く見られる「看板建築」と呼ばれる様式である。文具店の武居三省堂、花市生花店、荒物屋の丸二商店などがその代表的なものだ。
それは大正12年に起こった関東大震災により、多くの商店や店舗の建築物を失ったことが始まりであった。それまでの店舗建築として主流だったのは「町屋」と呼ばれる、瓦屋根に象徴される和式の建造物であった。しかし震災でその多くは倒壊し、震災後には多くの商店・店舗のバラック建築物での復興が相次いだ。この際、考現学の創始者として名高い今和次郎氏が「バラック建築をもっと美的に」という思想のもと、「バラック装飾社」を立ち上げたのが看板建築の先駆けであった。

江戸東京たてもの園

やがて、鉄筋コンクリートを使える余裕のない業者も多い中、洋風木造建築の平らな壁面の上に銅板やタイルを貼り、店名や商品名などの文字も入った、まさに看板のような建築物が生まれることになった。こうして看板建築は増えて行くが、この名称は後の時代、建築家の堀勇良氏や、現館長の藤森氏らによって命名されたそうだ。現在も看板建築は、神田神保町などに多く残されているが、それ以外の場所でもぜひ探してみたいものだ。

江戸東京たてもの園

東ゾーンの最も奥には「子宝湯」という名の銭湯が建っている。神社仏閣のような大きな唐破風(からはふ)を持ち、七福神の彫刻が施される等、豪華な造りである。浴室壁面には、銭湯の象徴のような富士山の絵もあるのは嬉しいところ。

江戸東京たてもの園

続いて訪れるセンターゾーンで目に止まったのは伊達家の門。旧宇和島藩伊達家が、大正期に東京に建てた屋敷門だという。反り屋根(そりやね)の門の横に、起り屋根(むくりやね)の片番所が付属し、「反り」と「起り」でリズムをなしているように見える。

江戸東京たてもの園

西ゾーンに行くと、時代を感じさせる建造物として「常盤台写真場」がある。板橋区の常磐台に存在した、その名のごとく写真スタジオだが、照明技術がまだ発達していない時期ということで、2階の撮影場に採光のための大きな窓が作られているのは興味深い。

江戸東京たてもの園

えんじと白のツートンカラーがまばゆいデ・ラランデ邸は、もともと平屋建ての洋館を、ドイツ人建築家ゲオルグ・デ・ラランデが、3階建に増築したものだ。1999年(平成11年)まで新宿区信濃町に建っていたが、その間にはカルピス創業者・三島海雲氏も住んでいたという。

江戸東京たてもの園

この園では建物の他にも、該当の時代に走っていた電車やバスの展示などもあり興味深い。黄色い電車は都電7500形であり、渋谷駅前から新橋、神田方面まで走っていたものだ。自動車の増加にともない都電は1963年(昭和38年)から順次廃止され、現在残るは荒川線のみとなっている。

江戸東京たてもの園

宮島にとっては知らない時代にタイムスリップしたかのようなたてもの園。しかし、懐かしさを感じてならないのは、人間の本質だろうか。

(文・写真 宮島永太良)

 

◇江戸東京たてもの園 → https://www.tatemonoen.jp

 
 
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