☆ 未来へのミラー ☆ 宮島永太良
人の記憶は定かではありません。 宮島永太良がこれまで歩んで来た道のりを思いを込めてほんの少し振り返っています…
第5回 ウルトラマンとの出会い!
大阪万博の開幕から間もなくして、幼稚園に入園する日が来る。 1970年4月であった。 幼い頃の私は、近所の子どもと遊んだりした記憶があまりなかった。 幼稚園に入って初めて家族と離れ、慣れない?子どもたちと多く接することになった。 また、入園以前、外で遊ぶよりも、車のおもちゃを使ったりしながら家の中で遊ぶことのが多かったので、外遊びもそれほど得意でなかった。
そして幼稚園入園前から、絵を描くことがとても好きになっていた。 親に聞くと、その頃、人の家などに出かけた時は、紙とペンさえ渡しておけば静かにしていたとのことだった。 ただ、変わった絵を描いていた記憶がある。 引っ越す前にいた家の周辺の絵だ。
新しい家が嫌いだったわけではない。
前にいた家が懐かしかったのだろう。
父に頻繁に、すでに整備が始まった前の家の跡地に、新車ローレルで連れて行って欲しいと何度も言っていた記憶がある。
そこで風景を観察しては、家に帰ると思いおこしながら絵にするのであった。
この趣味は幼稚園に入ってからも続いた。
お絵描きの時間などになると、決まってその前の家の跡地の景色ばかり描いていた。
他の子は家族や友達の顔とかペットの動物とか描いたりしているのに、幼い私はかつての家のあった風景、そればかりを描いていた。
先生から見たら、何か心に問題があるのでは、と思ったかもしれない。
現在であれば、きっと何やかんや問題視されるであろう。
そうしたことも含め、それまでほとんど同年代の子と接したことのなかった私は、幼稚園の友だちと慣れるのにも時間がかかった。 最初は友だちとも先生とも、まともに話もできなかったように思う。 普通は楽しみなはずのお弁当の時間も、逆に苦であった。 年に似合わず少し神経質だったことから好き嫌いも多く、またガッツリ食べられる体力が育っていなかったようで、お弁当を全部食べることができなかった。 「全部食べるのが良い子」とされる当時では、つらい子どもの一人だ。 母は、先生から「食べやすいようにおにぎりを持たせてあげて下さい」等と指導されたようだが、そういう問題ではなかった。 また、お遊戯などもどことなく気恥ずかしく、堂々とできる子どもではなかった。 そんな時期、幼稚園入園前から聴いていた音楽、特にクラシック音楽のことを考えている時が、最も好きだった。
入園のおそらく1年か半年くらい前から、母が家で聞いていたクラシック音楽に好きになってしまい、母も、私が気に入ったのを知り、さらに何度もレコードをかけてくれた。 家の隅で佇んでいたピアノも、クラシックの作曲家気分になって、いたずらで叩いていた。 ちなみにこのピアノは、母が昔音楽学校での練習で使って以来、あまり弾かれなくなっており、その後は小学校の時に来た家庭教師が、暇つぶしの鼻歌の伴奏に使われただけなので、ずいぶん可哀そうな境遇のピアノであった。
好きな曲もいっぱいあった。 ショパンの「幻想即興曲」などは子ども心にも印象深かった。 どこか恐々しい導入のメロディは、誰か怖い人(外人のような雰囲気で、男性とも女性ともも区別がつかない怪人のような人)が出て来そうで、それが逆に聴意をあおった。 かと、思うと中間では草原風景を思わせるかのような美しいメロディに変わり、その後再び怖いメロディに変わる。 そうしたクラシックの音楽を聴きながら、一人で想像の世界に没していることも多い子どもであった。 そんな私が、他の子どもたちと共通の会話を持てるようになったのが「ウルトラマン」を知ってからだった。 クラスのみんなは、どうもウルトラマンが好きらしい。 そんな状況を感じてか、親に「ウルトラマン・ウルトラセブンの大怪獣」とかネーミングされている写真絵本を買ってもらってからは、怪獣に夢中になった。 円谷プロが作り出したウルトラマンやウルトラセブン、そして怪獣たちの着ぐるみ写真を見て「美しい」と思ったのだ。 素材感も伝わってきた。 例えば「ミクラス」という怪獣は、非常にボリュームのある図体と大きな唇、丸い目が特徴だが、あの唇を触るとヌルっとしているのではないか、またお腹を押すとグリグリへこむのではないか、などいろいろ触覚的想像をさせてくれるのだ。
現代美術の世界では、合成樹脂などの素材を使い、本来の目的とは違った、あるいは用途のない物を造り、素材そのものの特性を感じさせるような表現もあるが、今にして思えばこんな幼い時期に、そのような現代美術的な鑑賞体験をしたことになる。 もっともそれらの怪獣を作り出したのは、成田亨(デザイン)、高山良策(造形)、という一流アーティストのコンビなのだから無理もない。 もちろん怪獣なので、怖いとかグロテスクという感じが伝わって来る者も多くいる。 今でも人気の「ダダ」という宇宙人(名前が芸術的!)は、幼い身にも恐怖心をあおる容姿であり「幻想即興曲」の冒頭で登場しそうな感じがした。