TOPTalk : 対談

菱沼美香さん、山下真弥さん、宮島永太良鼎談  前編


集合写真

◎菱沼美香(ひしぬまみか)さんプロフィール

菱沼美香さんspace
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美術家。
10月9日東京生まれ、A型。
女子美術大学卒業。


Blog :
http://ameblo.jp/misroutraki ►
Facebook :
https://www.facebook.com/mika.hishinuma.1 ►


 

◎山下真弥(やましたまや)さんプロフィール

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東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。ノンフィクション作家。
著書は、『六本木発グローバル恋愛』(洋泉社)
『ハーフはなぜ才能を発揮するのかー多文化多人種ニッポンの未来』(PHP研究所)、小説に 『南カリフォルニアの風』等がある。
2010年にアメリカの出版社と契約し、日本に先駆けて電子書籍に取り組んできた。 主な英語電子書籍は『Tokyo:Departing for Global Love』と『New Rising Sun: The Future of Multicultural Japan』。 現在、世界80カ国以上で読まれている。
2013年には、日本語電子書籍版『六本木発グローバル恋愛』をアメリカの出版社より逆輸入という形で再出版し、2014年1月より『ハーフはなぜ才能を発揮するのか』(PHP研究所)日本語電子版も再発売になった。
近年は、英語圏での活動に力を入れている。
海外メディアからの国際恋愛・結婚に関する取材多数。
連載雑誌 WEDGE Infinity ウェッジ・インフィニティ『知られざる「移民社会」ニッポンの現実』。
今後出版予定の新刊本『わが息子、わが娘は生涯独身?日本の若者が結婚しない(できない)理由』(仮のタイトル)

URL http://wedge.ismedia.jp/category/iminnippon ►
Twitter https://twitter.com/MYgoen ►

 

菱沼美香さんが山下真弥さん、宮島永太良と「アート」を語る!

個展「セレブ /  Celebrity」開催前の菱沼美香さんが、友人の山下真弥さん、宮島永太良と「作品」や「現代アート」について語り合った。

宮島永太良(以後・M):
美香さんとは今年2度目、山下真弥さんとは初めてお会いしますが、よろしくお願いいたします。 
早速ですが、個展名を「セレブ / Celebrity」に決めた理由は?
菱沼美香さん(以後・H):
私にとって一番好きなイメージは、「ハイファッション」とか「女性」、現代風な女性美がテーマです。  これまでは、それを油絵で描いていましたが、今回は写真で制作。 参考作家はシンディ・シャーマンさんと森村泰昌さん。  まあ、日本語の「セレブ」は英語本来の「Celebrity」とは意味が違い、英語ではハリウッドスター、スーパーモデルらゴシップでマスコミを賑わしパパラッチの標的にされる「有名人」のこと。  日本で使う「セレブ」とは「リッチな人々」という意味があり、普段自分の視界に入って来るちょっと派手な東京の人々を重ね合わせてインスピレーションを受けました。  また、日本の女性誌でも「セレブに学ぶ着こなし」などと言いコピーで使用され、「セレブ」という言葉は抽象的で、どこか風刺的で面白いと思いました。

菱沼美香さん 個展案内

M :絵画から飛び出したかった?
H :そうではなく別の表現に挑みたかったからです。  前に写真の仕事をしていたこともあり、「女性美」を写真で表現できると考えました。  きっかけは単純です。  私自身がキッチュな意味での‘セレブ’に変身しているアート作品で、イメージが「世界のリッチ層」、または「リッチ層と交際する、選ばれた若い女性たち」を連想させるものと、一応設定したのですが、半分以上ユーモアになりました。  また、作品のもう一方の軸は「ハイファッション」で、私の好きなコンセプト。  セレブは当然クオリティの高いお洒落をするものといった先入観があり、世界のファッション誌では日々、これでもかという最高のセンスがしのぎを削っていて、そのレベルはまさにハイアートに等しいと思います。  私自らをセレブに擬態させるシミュレーションの手法を用いて、シャネルの洋服を着たマネキン作品、などもあるのですが、既成のハイファッションに擬態するところから「ファッションとは何だろう?」、「このある種の階級意識を作り出している装置としてのファッション産業とセレブリティ界とは?」など、様々な問題提起を鑑賞者に想起させる意図もあります。  今の銀座でよく見られるグッチやシャネル等のブランド主義も髣髴とさせます。

M :展示作品はほとんどが写真ですか?   また、6月にミーツギャラリーで行われた「Grily 2014」にも美香さんがモデルになっている作品がありましたが、今回は?
H :写真です。  また、ART lab TOKYOの森下泰輔さんにディレクターとして協力していただいています。

M :では、ART lab TOKYOで発表してきた作品の延長線上?
H :私のメインテーマは、宮島さんの作品にも見られますが、哲学、人間の想念、輪廻、欲望、宿命、それらを思い描いて女性像に委ねることですが、今回の展示作品に成熟した女性像はなく、私が描いている「Grilyシリーズ」の流れを汲んでいる作品、ある意味で少女趣味かもしれません。

M :ボクも写真で作品制作をしたことがあります。  絵では伝えられないことも写真ならそれができるかもしれない。  表現方法が複数あれば、可能性は広がると思います。
H :趣味でポートレート作品の制作をしていたけれど、経験が浅く成熟した表現ではないので現代アート風にしました。  実験です。  「We got to wasting our time」という標題作は、バーバラ・クルーガーのこれまたシミュレーションで「私たちは人生の浪費をやめなければならない」という意味なのですが、それが「セレブ」に向けられているのか、それとも自分や私たちに向けられているのか、二重性を持たせたテーマです。  昔は都会で経験できる幸せで贅沢なコトや時間も、今では不安を含むようになりました。  そして、それが有意義なのか、無意味な時間なのか、わからない感覚が若い頃にはありました。  また、本当は何かに対する使命があるんじゃないか、とか、なんか不思議な感覚です。  ちなみにバーバラ・クルーガー(ロシアの現代美術家)「『この世の中を動かしているものすべて』への関心」の言葉に、私も非常に感銘・影響を受けています。  また、「『アート』という言葉を私は使わない。  興味あるのは、生と死、セックスと力。  つまり人生を作り上げているものすべて。  絵と言葉には我々が誰であり、どうなるかということを教えてくれるパワーがある」これもバーバラ・クルーガーの言葉ですが、彼女は感覚的に何か、暴力的なまでの世界の大きな力を常に感じ、捉えているのがわかります。  フェミニズムは、常に私の作品にも含みがあるので共感を覚えます。

M :ボクが写真で制作したのは女性の体操服やセーラー服姿。  写真でなければ表現できないと思っていたからです。  そして、出来上がり作品を森下さんや菅間圭子さんに見せたら、現代アートとして表現できていると言われ、展示していただきました。  美香さんとは逆のケースです。
H :真弥ちゃんは、聞きたいことがありますか?
山下真弥さん(以後・Y):
ふたりのお話を興味深く聞かせてもらっていましたが、どうして展示作品が少女趣味へ向かったのかは疑問です。

H :ディレクターの森下さんの考えでART lab TOKYOの「Girly」を基本的なテーマにしているから。  かなりマニアックな思考かもしれません。
M :以前、森下さんから「Girly」は必ずしも少女趣味だけではないと聞きました。  それぞれのアーチストによって変わるのかもしれない。
Y :ひとりの作品をそれぞれがどんな風に捉えられるかと言うことですか。 森下さんはアーチストひとりひとりの感性に対して働きかけ、イメージしているのかな?

山下真弥さんと菱沼美香さん

H :私のメインテーマの成熟した女性像やレン・ビッカ的作品を提案したけれど、今回は除外されました。
Y :森下さんがセクシュアリティやインスピレーションを感じることが大切で、そこにアートの哲学が存在するのかもしれませんね。

H :それも含めて、現代アートは混沌としていて野放図でホームレス状態。  事実、今では落書きを芸術祭に出したら、「芸術家」って言えちゃうぐらいです。  そうした構図は無数にあり、中でもART lab TOKYOはパワフルでマニアック。
Y :現代アートのメインストリームがあまり理解できていないので、具体的な作家名を挙げて教えて欲しい。

H :草間弥生さん、村上隆さん、奈良美智さんかな。
M :その中の草間さんは80歳を過ぎていて、外れる気がする。 正に現代アート同様、代表的アーチストも混沌としています。

H :確かにそうですね。  現在、多くのアーチストが何もわからずに制作。  その上、プロで突き抜けた人もいないし、銀座やニューヨークでそれぞれの画廊が活動を行った結果、ちょっと有名になった「素人さん」って、言う感じです。
Y :その状況で美香ちゃんは、女性をテーマにしているけれど、それに決めた大きなキッカケは何だったのかな?

H :流れもキッカケもなく、自分の中に詰まっているものを吐き出したら描いていた。  その時々に女性として感じた生き辛さを、昇華しただけです。  ピカソは、「芸術は苦しみと悲しみから生まれる」と言っています。  創造とは内面から溢れ出るものだと思う。
Y :そう言えば、昔、美香ちゃんが知り合いのウチで絵に詩を付け加えた作品をサッと描いて見せてくれたことがあった。

H :スケッチブックの落書き!
Y :それを見た時、素直に自分を出している様で、私は結構好きだった。  でも、個展で見る美香ちゃんの作品は人に見せるための顔の様な気がする。  普段、私と話している時の様に自分をさらけ出していない。  まだ、殻を破ってないのかもしれない。

M :何時か、地の菱沼美香さんを見せる機会が訪れると良いですね。 でも、この状況だからこそ、別の可能性も生まれてくると思います。
Y :美香ちゃんの場合、人の物差しに合わせようとするし、強く言われたら「はい」って、自分で引いてしまいそうな気がする。  一度情熱をぶつけてみるのも良いと思うよ。

H :今回の個展の打合せで、作品に加えて私のキャラクターもアートだから、それも強く打ち出して行くことに決めたの。  でも、おどろおどろしくて暴力的なのにね。
Y :普通になろうと頑張っている気がするけどな。

H :そう、女子として一般的に見える私を石膏でカタチ付けています。  女性である前に芸術家、みたいな倒錯的なド・アーティストキャラになりたいとは思いません。  一般の世間のメインストリームの目から見て、まずは素敵な女性であることが、私の美意識であり目標です。
Y :でも、社会が求める女性像は時代によって変容していると思う。  だけど、美香ちゃんの女性像は何故か常に古いの。 具体的に言えば、一般的なサラリーマンと結婚した女性にあてはめようとしている感じ。  世間の標準に合わせようとして、苦しんでいるように見えるときがある。

H :でも多分、普通に大丈夫。
Y :そこが、どういう具合にアートとシンクロするの?

H :私、実はアーチストと思っていない。
Y :アーチストって、もっと爆発している?

宮島永太良

M :ボクも美香さんと同じで「画家」と呼ばれるのは嫌です。
H :私は画家や芸術家とは未だに思っていません。  自分でアーティストと言うのもナンセンス。
Y :話が少しズレ気味だけど、それはそれで理解できます。

H :画家ほどおこがましい存在ではないと思う。
Y :私もただクリエイティブライティングが好きで、色々な機会に恵まれ、本も出版し、何時しか「作家」「ノンフィクション作家」と呼ばれる様になった。  でも、本質的な私は何も変わらず、取り巻いている社会の評価が変化、それが人の繋がりにも影響を与えて活動範囲が広がって来たのだと思う。  アートの世界も同じでは?

次号に続く

(文・写真 関 幸貴)
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