TOPReportage : イベント報告

私的震災体験話A

− 2011年3月11日『東日本大震災』その後… −

 
山口晶代さん

 前回の体験記で、11日は舞台本番中で、楽屋に泊まり、12日、13日(千秋楽)まで、無事に公演を終えたまでを記した。  その2日後、京都で一人暮らしをしていて、昨秋から入院をしていた父方の祖母が亡くなった。

 実家の日立で震災にあった両親に連絡が取れないと、京都にいる従姉妹から私に連絡が入った。  もともと両親は京都出身、父の仕事の関係で今は日立に住んでいる。  日立でも山添だったため、家の被害は少なかったが、停電と断水が長引いた地域。  祖母の事で連絡が取れなかったのは、給水に並んでいた時らしかった。

 その後、父と電話で話す事ができたが、「17日のお通夜だけど、今は日立から東京まで電車が走ってないから、行けそうもないので、晶代が代表で行って来なさい」とのこと…。  昨夏、京都に行った時、元気な祖母に会えた事や、長男である父が京都に行けない事、京都にいる伯父、伯母、従姉妹達が、お通夜や葬儀の準備をしてくれている事等々、考える事がいっぱいで、頭の休まる時間のないまま時が経った。  ところが翌日、母から「高速バスで東京まで来られるかもしれない」と電話があり、「ダメ元で、明日、朝の3時から、バス乗り場に並ぶから…」と、電話は切れた。

車窓からの富士山

  ▲3月17日、新幹線の車窓から

 「バスに乗れたよ」と母からメールが入ったのは、翌朝5時半頃だった。  そして、両親の乗ったバスは亀裂の入った道路を運転しながらも無事に東京に着き、私は両親と東京駅の新幹線ホームで会う事が出来た。  祖母の事は悲しかったけれど、「祖母が両親に会わせてくれた」と思った。

 東京から京都に向かう新幹線の中から、とても綺麗な富士山が見えた事が印象的だった。

 京都に着き、両親と私は祖母の納棺に間に合った。  祖母は本当に穏やかな綺麗な顔をしていて、納棺師の方は親切に説明をしながら、旅立ちの準備をして下さった。  ふと、6日前、震災にあって、行方不明になっている方々の事が頭に浮かび、人のこの世の最後の時間は、旅立つ人にとっても、残された人にとっても、大切な時だと思った。  その夜、お通夜があり、両親と私は葬儀場に泊まった。震災後、初めてシャワーを浴びられた両親は、祖母に感謝しながら喜んでいた。  翌日、葬儀を無事に終え、その後数日間、両親と私は祖母の家で過ごした。

山口晶代さん

 帰京後、一気に疲れが出たのか、私は、身体全身にじんましんのような発疹が出て、痛みとかゆみで3日間寝込んでしまった。  回復後、4月19日、20日、浅草リトルシアターにて、瀬戸内寂聴 作 「しだれ桜」の「語り」の公演を予定していたので、稽古にとりかかった。

 この話は、京都の桜守、佐野藤右衛門さん(現在16代目)のお庭にある「しだれ桜」がモデルになっている話だ。  京都にいた時は、桜の時期にはまだ早かったが、都内であちこちの桜を見ながら稽古をした。  桜を見ながら、何故か祖母の事と、5年前の4月に、桜のようにこの世を去った私の親友の事を思い出したりしていた。

 よくお盆には、この世を旅立った方々が、帰って来ると言われるが、私は桜の花になって、帰って来てくれる人がいるような気がする事がある。

 宮島永太良さんの詩、「満開だった桜が散りはじめた」を気に入り、前に「語り」をさせて頂いた事を思い出した。  改めて読み返すと、今の私の気持ちをそのまま書いて下さっているような気がした。
今回は、この詩を最後にさせて頂きます。

桜が散りはじめた
 

  満開だった桜が
           散りはじめた。                宮島永太良

  満開だった桜が散りはじめた。
  今日もまた散ってゆく。
  もう間もなく無くなってしまうだろう。
  花は行ってしまうのだろうか。
  わずかな香りを残しながら。
  昔ある人が言っていた。
  「私はこの桜の花のようで在りたい。
  やるべきことは全部やった。
  あとはここを去ることが自分に残された仕事だ」
  去る時は潔く去りたい、
  その人はかねてからそう心がけていた。

  四年の月日が経った。
  この桜の散りゆく姿は、
  今日もその人を思い出させる。
  今はどこでどうしているのだろう。
  華やかに咲き誇った桜は、その姿を惜しむ様子もなく、
  今日も流れるように散ってゆく。
  私は、また来年も戻ってきておくれ、と
  願うことしか出来ない。

 by Sekikobo

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