TOPTalk : 対談

間もなく定年を迎える金木伸浩さんにコロナ禍での
仕事とロックバランシングについて語っていただきました… 後編

金木伸浩(かねきのぶひろ)さん
 

金木伸浩(かねきのぶひろ)さんプロフィール

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ロックバランシング(石積み)アーティスト
2020年12月に30年勤めた私鉄関連企業を定年退職。
1960年宮崎県生まれ、神奈川県平塚育ち、現在は大磯在住。


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金木伸浩さんは、学生時代から音楽活動に親しみPA(音響)として働いた経験もあり、2005年〜2011年には横浜トリエンナーレのスタッフを務め、2012年度から2015年度まで指定管理者の統括責任者として横浜港大さん橋国際客船ターミナル等を管理。その間、人の出入りが自由な大空間でのアート作品の展示や「市民文化祭」等を企画、公共施設での地域活性化に尽力した。

個人的にも2014年3月からはロックバランシングアーティストとして活動開始。地元、大磯の海岸でロックバランシングの出来上がりを黄昏や海を背景に写真に収めfacebookに発表したり、各地のイベントでワークショップを開催、好評を博している。
instagram : https://www.instagram.com/kaneki_nobuhiro/
Facebook : https://www.facebook.com/nobuhiro.kaneki

金木さんの石積み

        写真提供/金木伸浩さん

 
 

小春日、大磯の浜辺で金木さんが、ロックバランシング(石積み)を語った…

大磯の浜にて

*前号からの続き

月刊宮島永太良通信編集部:
(以後Q):日頃から金木さんのinstagramやfacebookを拝見していると、大磯の海岸で石積みの出来上がりを黄昏や海などの美しい光景と共に写真に収めてアップされていますが、石積みはいつ頃から行っているのですか?
金木伸浩さん(以後A):2014年の3月からです。横浜大さん橋の主催事業で企画し開催した「市民大文化祭(オトナの文化祭)」で運良く出会いました。積み始めて今年で6年目になります。

Q:コロナ禍の在職中、何か石積みへの影響はありましたか?
A:まず、各地で行っていたワークショップは感染拡大の観点から全て中止になりました。また本業がテレワークで在宅時間も長くなったので自宅で積む機会が増え、僕にとっては好都合でしたが、妻にとっては逆だった様です(笑)。

Q:テレワーク中、石積みをすることで何か効用はありましたか?
A:はい、大いにありました。

 
石を積む金木さん

Q:それはどの様なことですか?
A:前回も少しお伝えしましたが、膨大な管理情報をデジタル化する新プロジェクト開発を行っていたので、エクセルで10000行とか12000行ある情報をスタッフと共に精査してズームで打合せ、そして修正。そうした業務をただ一人自宅で行っていると、オフィスで無駄口をたたきながら行うのと違い、気晴らしはできないし効率も上がりません。

Q:差し支えなければ、どの様なことを精査していたのですか?
A:ICT(情報通信技術)化して行くにはロボットやAI(人工知能)でもできる領域と、人間でしか出来ない領域あるので、人がやれば良いこと、機械で管理すれば良いことに切り分ける作業を黙々と行っていました。

Q:何だか大変そうですね。で、石積みの出番は?
A:ある意味、自宅での仕事が、そうしたハードな内容だったので、どうしても頭の切り替えが必要になり、昼食後に白い壁をバックに積み、写真を撮ってを繰り返していました。ただし、度々やりっぱなしを妻からは指摘されましたが、石積みがあったのは本当に良かったです。

Q:特に何が良かったですか?
A:石積みをすることで自分だけの時空間に入ることができ、完全に気分は変わることです。何故なら積んでいると手は動いているけれど、頭の中はとても静かになるのです。それって絵描きさんが無心で色を塗っている時と同じじゃないかと思いますよ。で、自分で言うのもなんですが、いつもクリエイティブな感覚が生活の中にあったし、より気分を変えるために海へ行って積むこともできたのは幸いでした。とにかくテレワーク中も石積みによって僕は静かな時間と冷静さを得ることができました。

 
浜辺にできた作品

Q:では、実際に浜辺で石積みをどの様にするのか教えてください。
A:まず砂浜歩きながら、目に付いた石を「あっ、コレだな」って思ったのを使います。ほぼいつも同じ場所で積むので、ほんのたまに残っている石を使うことがありますが、基本的には、その日出会った石を大事にしています。

Q:その制作スタイルはいつ頃からですか?
A:ここ2〜3年ですね。実は僕のホームグランドであるこの砂浜は、一度嵐が来ると、全部が砂で埋もれてしまうことがあるし、石が全くないことがあります。ただ、いつの間にか石が戻って来るからこそ、今日の石と、どう出会うかが僕にとっては一番大切なことなのです。

Q:毎回、思い通りに積めますか?
A:できない日も大いにあります。でも、できなからと言って楽しくなかったと言えば、そうでもなくて、石を探して、色々考えながら石と石の組み合わせ考えるプロセスがとても楽しいのです。

Q:では、以前は?
A:最初は会社勤めだったので浜に来られる日が少なくて、来たら「作品を作らなきゃ」って思っていましたが、いつの間にか「今日はできない日だった」と潔く帰る様になりました。

 
浜辺の金木さん

Q:心境の変化の原因は?
A:「作らなきゃ!」って思っていた頃は、仕事での成果や達成感を重要視している自分がいました。でも、積むことを重ねて行くうちにその感覚が徐々に消えて行き、出来なきゃできないで仕方ないかと思うようになったのです。

Q:肩の力が抜けた感じですか?
A:そうとも言えますが、そもそも石で遊ぶって難しいことだと気が付いたのです。だって石は絶対に言うことは聞いてくれません。だから、僕がイライラしてもしょうがないし、遊ばせてもらうだけで十分だと思う様になりました。このエピソードをワークショップでもしますが、イライラする人って他者を支配したいとか、コントロールしたい欲があると思います。これは石だけに限らず人に対しても同じです。僕自身、石積みを始めたお陰で、そのことに気付き人との関係性が、それ以前より円滑になり、他者に対しても優しくなった気がします。結局、人や石を問わず無理なことを要求してダメだと思い致しました。だから、プロジェクトリーダーになった時には、石積み同様、メンバーの組み合わせをどうするかを、より考える様になり、彼らの個性や自主性を重んじる様になりました。

 
夕暮れの浜

Q:良い意味で人も石も同じですか?
A:そうです。最近、ちょこっとだけ読んだ「量子物理学」の本によれば、石って常に安定したい動きをしているそうです。だから、横になって安定している時のエネルギーは低く、不安定な状態で止まっている時のエネルギーは高いとか。だから、不安定に積んだ石ほどエネルギーがあり魅力的で、その危うい姿を考えながら写真に収める時に僕は至福を感じます(笑)。

Q:撮影を終えた石積みはどうするのですか?
A:自分の手で崩すのが鉄則、それが次へ進むステップでもあるのです。

Q:今日はありがとうございました。

  

取材協力:茶屋町カフェ

 

(撮影・構成 世紀工房)

 
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