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熱海今昔

 宮島永太良の今回の旅は静岡県熱海。

熱海海岸

 しかし宮島にとって熱海は、静岡県という感じではなく、むしろ伊豆というイメージだろうか。 なぜなら、神奈川県小田原で生まれ育った宮島にとって、幼い頃から熱海はあまりにも近い場所、そして箱根と並んで一番近い観光地だった。 なので、県を隔てているような気がしなかったのである。 とはいっても、熱海はかつて日本でも有数の観光地であり、そんな場所が生まれ故郷の近くにあったのも恵まれていたといえる。 今「かつて」と言ったが、それは現在、有数の観光地でなくなってしまったという意味ではない。 その後、同じ様な規模の観光地が続々と誕生したということである。 それは、熱海が日本の観光地の先駆けであったことを意味している。 近年では又吉直樹の芥川賞小説「火花」の舞台となったことでも知られる。

熱海駅

 「熱海の思い出と言えば、幼い頃、父にドライブで連れてきてもらったことがほとんどで温泉旅行などには来たことがありません。 あまりに近い場所だったので、旅行感覚ではなかったのでしょう」また、一般の熱海のイメージとは逆に、子供時代の宮島にとって熱海からはかなり怖いイメージを提供されているようだ。 消防署で鳴っていた超重低音のチャイム。入口に煙が立っているホテル。 (本当は温泉の湯気だが、幼い宮島は煙と思った)エントランスに床まで届くほどのシャンデリアのあるホテル。 通りに長蛇の花輪の列ができた、ある家の巨大葬儀。 古い映画で某ホテルの大風呂で殺人事件が起きる設定のものがあったが、まさにそれと同じ大風呂が、工事によりむき出しになっていたこと。 たまたま熱海に来た時に聞いた、全く違う場所での飛行機事故のニュース(こうなるともう濡れ衣)。

熱海の商店街

 また、かつて熱海には後楽園という遊園地があったが、宮島は小学校低学年の頃、そこでジェットコースターと観覧車に乗ったことがある。 観覧車はそれまで低いものにしか乗ったことがなかったが、熱海後楽園で初めて本格的な高さのものに乗りとても怖かったのと、やはり初めて乗ったジェットコースターは、言うまでもない怖さを体験した。 「その後、テレビでその観覧車にスタントマンがよじ登っている姿を見た時は、オカルト的な怖ささえ感じた」という宮島。 そんな熱海も、今ではすっかり彼の心を和ませる思い出の場所となっている。 子供の頃の恐怖は、大人になれば郷愁である。

小高氏と与游窯で

 今回の目玉は、厚木のぎゃらりー喫茶なよたけのオーナー・小高義照氏が運営する陶芸アトリエ「与游窯」。 そこで小高氏から直々の陶芸指導を受けることになった。 陶芸の経験も多少ある宮島は、久々の本格的陶芸実習に胸をおどらせた。熱海駅から車で20分ほど山を登る場所にあるそのアトリエは、山小屋風の情緒あるもの。 近くには丹那断層があり、東海道線、東海道新幹線が通っている「丹那トンネル」の名前でも知られている。

作陶風景

 陶芸実習は思いの他熱中してしまったようだ。 「かつての陶芸の経験以前に、粘土をさわる感覚は大好きです」と語る宮島は、この日のメインの湯飲みをはじめ、箸置き、指輪、そしてオブジェ類を休む間もなく作り続けた。 「ふだん、なよたけで見ている小高さんの作品が、ほとんどここで作られていることを思うと、次に見た時にはより親しみがわきそうです」ここでの作品を焼き上げるのは小高氏に委ねられたが、果たしてどのような作品に仕上がるか、またレポートしてみたい。

天然記念物の大木前で

 そしてアトリエを後にする。帰りにまず寄ったのは来宮神社。 ここは樹齢2000年で天然記念物にも指定されている、楠(樟)の大木で有名である。 高さ、周囲とも20メートルあり、その姿はまるで巨大な人物が仁王立ちになっているようで圧巻であった。 そして熱海といえば海岸沿い。 ここはサンビーチの名でも親しまれている。 この季節は海水浴のメッカだ。 あちこちに並ぶ海の家は、やはり夏の風物詩といえよう。 40年以上前から宮島はこの夏の景色を見続けたという。

貫一とお宮の銅像 お宮の松

 海岸の道路沿いには、尾崎紅葉の「金色夜叉」で知られる「お宮の松」がある。 しかも、現在、なんと二代目で初代は切り株となってその横に展示されていたのは驚きだ。 明治30年に読売新聞で発表された「金色夜叉」では、主人公の貫一とお宮がこの熱海の海岸沿いを歩き、そしてお宮が散々な目に合う場面が有名だが、熱海が日本でも有数の観光地となり得たのは、丹那トンネル開通とこの作品の人気であったというのは意外だった。 普通なら有名な観光地だから小説の舞台になったと思いそうだ。

海

 夏の相模湾をのぞむ海岸の向こうには宮島が親しんできた、神奈川県の各海沿いがある。 「海の向こうは、自分が生まれ育った思い出の場所が連なっています」見えはしないが、それらの場所の波の音まで連想させながら、間もなく熱海も日が暮れていく…

夕陽

(文・写真 宮島永太良/写真 関 幸貴)

 
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