TOPTalk : 対談

「健康をめざすアート展」を終えた住谷重光さんと宮島永太良が語った
 後編

 

◇住谷重光(すみたにしげみつ)さんプロフィール

画家 妻の美知江さんも画家
1950年7月 兵庫県神戸市生まれ、現在は神奈川県大磯町在住
1977年3月 国立東京芸術大学油画卒業
個展、グループ展多数開催
2022年5月と10月に開催された「健康をめざすアート展」に出展
湘の会主宰
小田原カルチャーセンター講師
あらたま会会員

 
 
 

「健康をめざすアート展」を終えて

一般財団法人「健康とアートを結ぶ会(代表理事 宮島永太良)」が、2022年に初めて主催した「健康をめざすアート展」を終え、長年の画友で出展者の住谷重光さんと宮島永太良が、展覧会を振り返った。

前号からの続き…

宮島永太良
(以後E):2023年以降、「健康」をミーツギャラリーのテーマの柱の一つにすると言っても「健康」の分類化が、まだしっかりできていないので個人的には、それを早くクリアーしたいです。
住谷重光さん(以後S):僕にできることがあればお手伝いさせていただきます。それで宮島さんは「病気と健康」をどう捉えていますか?

 

E:病気は避けられない場合もあるので、病気を持っている人でも、その人なりの健康もあると私は考えています。もちろん障がいを持ちながらの健康もあるし、完全に病気がないのが健康とは捉えていません。だから、病気や障害がある人も、その人なりの健康を維持して行くことが幸せで、そこにアートが関われたら嬉しいですね。
S:これまで僕は自然を色々描いてきました。その際、樹木を観ていると水の流れが見えてきます。樹木は、まず水を地下から吸い上げ、それが蒸発して雲になり、雨となって地上に降り注ぎ、再び地下へしみ込む、そう、水も自然界で循環しているのです。こうして綺麗に流れているのが健康で、どこかで滞ったりすることが病気の状態だと、僕は思っています。そして人間も自然の一部、流れは決して無視できません。

E:自分の部屋を汚していると、日常の動きが悪くなるのにちょっと似ています。だからこそ日頃から整理整頓をするべきですね。ただ、病気とは別に障がいのある方をアート面から理解するのは難しいので、「健康をめざすアート展」に出展してもらったシモンさんは大切なポジションでした。彼は緑内障で目が見えずらいけれど、それでも一所懸命に絵を描いています。そうした現状を多くの方々に知らせる意味もあり作品展示をお願いしました。ところが、大変な状況になればなるほど彼はアンディ・ウォホールや現代美術への理解をより深め、制作意欲は増しています。だからこそ、シモンさんには障がいに関係なく作品発表の場を提供していければと思っています。そこから考えると、パラリンピック的なアート発表の場は必要ですが、もう一方で障がい者と健常者の分け隔てない展覧会が普通に開けたらベストでしょうね。
S:僕の教室が、正にそうです。実際、10年以上前から知的、肉体的障がい者と共に同じ空間で筆をとっていますが、彼らの障がいは一つの個性と僕は捉えています。ある意味、完全な人間はいないのですから。

 

E:教室で障がいのある方はどう過ごされているのですか?
S:健常者と違いはありません。みな熱心に描いています。コロナ禍で障がいのある受講生は少し減りましたが、教室で見ていると肉体的に障がいのある方が、知的障がいのある方を優しく自然にサポートしています。

E:それは素敵な関係ですね。
S:そうですね。以前、肉体的に障がいのある方は自転車で来ていましたが、年齢を重ねた今は介護タクシーで通ってきます。なぜお金を使ってまで通ってくるのかなって考えていたら、彼にとっては、絵画教室は絵を描くだけでなく、貴重な社会参加の場なのだと思い至りました。

E:社会参加したい気持ちは本当に大切です。では、作品制作に関してはいかがですか?
S:僕がアドバイスをしますが、ある方は計画的に1年がかりで制作をしています。できあがった作品のバランスは良く、ウチの教室の展覧会では人気を博しています。とにかく十人十色、人それぞれですが、最近、僕は92歳の方の個人レッスンを始め、思わね経験を積んでいます。

 

E:92歳とは、ご高齢ですね。
S:その老婦人は東京で一人住まいをされていたのですが、それを心配された大磯在住の息子さんが、彼の近くにある至れり尽くせりの施設に入所させたのです。ところが、施設の環境が良過ぎて体を動かす機会がめっきり減ってしまったので、こんどはボケの症状が少し出てきてしまったとか。「これはまずい」と思った息子さんは、急遽、自宅を二世帯住宅に改築して同居を始めたそうですが、施設での影響か、一緒に住み始めても老婦人は自ら動こうとはせず、一日中テレビを見ているだけの生活を送っていたそうです。その状況下、そこのお嫁さんの知り合いだった僕の妻の美知江さんが、そのお宅を訪ねた時、老婦人が以前は絵を描いていたことを知り、再び描くことを勧めたのが縁で、僕が今秋から個人レッスンで伺うことになりました。

E:個人レッスンはいかがですか?
S:1回2時間ぐらい、月2回ぐらいのレッスンを、これまで3〜4回行いましたが、老婦人と僕の相性も良く、かつて描いていた方なので当時を思い出し、みるみるうちに自分で進んで描くようになりました。そして、なんと最初のレッスンの帰りに「先生、宿題は?」と言われ、僕は嬉しい驚きを覚えましたよ(笑)。

 

E:現在の老婦人は?
S:描く以前とはガラッと生活スタイルが変わり、スタスタ歩いて行動的になり、それまで心配で目を離せなかったお嫁さんが、最近では外出できるようになったそうです。

E:アートがボケの進行をくいとめた実例と言えますね。
S:そうです。人間って、死ぬまで感覚を若く保てると思います。現に97歳の時に描いた作品が最高傑作だと僕は思う中川一政さんは、亡くなる1ヶ月前まで描いていたそうです。これもアートが健康にもたらした力と言えるのではないでしょうか。

E:私もそう思います。本日は長い時間ありがとうございました。これからも「健康とアートを結ぶ会」へのご支援よろしくお願いします。

終わり

(構成・撮影 関 幸貴)

 
 
 
 
Copyright © 2010- Eitaroh Miyajima. All Rights Reserved.