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Special Talk !
晩秋の鎌倉、Galleryジタン館で個展「光と影の眼差」を開催中の
加藤力之輔さんに群像画について語っていただきました…

 
加藤力之輔さんの群像作品
 

◎加藤力之輔(かとうりきのすけ)さん プロフィール

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加藤力之輔さんspace
画家。
1944年6月13日神奈川県横浜市生まれ、双子座、A型。
1962年神奈川県立鎌倉高校卒業。
1972年からスペイン国立プラド美術館で4年間「ティツィアーノ」を
模写研究、マドリードの美術研究所で人体デッサンの修練を積む。
2004年より覚園寺(鎌倉)・新善光寺(京都)・梅上山光明寺(東京)で 「異文化空間展」開催。同時代ギャラリー(京都)、印象社ギャラリー、 文藝春秋画廊、小川美術館(東京)等で作品発表。
2017年11月、Galleryジタン館(鎌倉)で個展「光と影の眼差」開催。
日本、スペインで多数個展開催。
現在、京都・スペインで制作。

 

晩秋の午後、坂の途中のGalleryジタン館で…

 
加藤力之輔さん個展「光と影の眼差」会場で

2017年11月初旬、江ノ電の鎌倉高校前駅からいつくかの坂を上下しながら辿り着いたGalleryジタン館には鋭角的な午後の光が差し込み、存在感のある加藤力之輔さんの大小様々な作品が展示されていた。  どれも魅力的な作品だが、濃淡ある光の中で見る大きな群像画は不思議な躍動感に溢れ、来場者を迎え入れていた。  そこで群像画の秘密を少しでいいから知りたくなり、在廊していた加藤力之輔さんにお話を聞いた。

「日本で群像画を描く人少なかったのですが、若い頃に東京のブリヂストン美術館で青木繁の作品『海の幸』を見て鮮烈な印象と感銘を受け、それが心に深く宿り、群像画を描きたいと思ったのが私の出発点でした。  ただ、人物一人一人を描くので形とかデッサンが狂っていたら群像画は成立せず、描くにはそれなり鍛錬が必要です。

加藤力之輔さん作品の前で

そんな時、父の知り合いでスペイン関係の方から『プラド美術館では模写ができますよ』と聞き、群像を描くための好環境に行けると考え、スペイン行きを決断。  1972年、28歳の夏に横浜港から海を渡りました。  しかし、マドリードに赴いたからといって、すぐに描けるようになるわけではありません。  ルネッサンス時代の画家たちでさえ、13年ぐらいはデッサンを勉強。  ところが、それは天才たちの話であって、私が間違いなく人体を描けるようになるまで、その3倍の時間、約40年の年月がかかりました。

その間、何をしていたかといえば、プラド美術館で4年間ティツィアーノを模写研究。  また、同美術館でベラスケス、ゴヤ、ルーベンス、彼らの群像画を見て、完璧なデッサン、形が間違いなく描いてあると認識。  『人体を隅々まで正確に描けなければ絶対に駄目だ』と思い、模写研究と同時に運良く自宅近くにあった近所の美術研究所で人体デッサン学びました。  そこでは、絵に出てくるようなスペインの人たちがモデルになっているので凄く勉強になりました。  彼らはラテン系だから、体はそう大きくはありませんが彫刻のよう、そのうえ裸でポーズを見せるのに抵抗を感じていないので、手足をあげて大胆な動きをしてくれたし、肉厚な体の周りに独特の空気を発し存在感を表現。  そして、椅子の生活だから立ちポーズが綺麗。  だから、今回の個展で発表した作品のモデルは全てスペイン人です。

加藤力之輔さんの作品展示風景

昔、研究所でポーズの注文ができたのですが、最近はできないので、だから私は照明とモデルの位置を考えて描く場所を決めます。  最良のポイントは、光と陰が半々でモデルさんが最も立体的に見える場所。  そこを見つければ立体的な絵が描け、群像を描くのに大いに力になりました。

こうした経験を踏まえた上でも、青木繁の『海の幸』は凄いと思います。  現実にあのシーンを青木は見ていないとも言われていますが、見ていなくても作品からの違和感は全く感じない。  その理由は、しっかりとした画家自身の視点と技術的な裏付けがあるのに他ならないと思います。  それが素晴らしく、作品から違和感を感じるのはかなりまずい。 だから、私も自分の作品を見ていただいた時に違和感を与えないよう常に心がけています。  そして、群像画を描く時、私は最初に登場人物の配置、構図を考え、制作を進めているうちに目鼻、顔の段階になると、うまく説明できませんが、絵の登場人物それぞれに会話を挿入するようにしています。

加藤力之輔さんGalleryジタン館で

会話の内容は私自身もわかりませんが、そうすることで命が吹き込まれ、私の群像画は成立するのかもしれません。  この感覚でこれからも全力で制作に挑んでゆきます。  
よろしくお願いします(笑)」。

(加藤力之輔さん談)。

お話の後、改めて会場内を見回すと、今回個展を開催した土地の鎌倉二中、鎌倉高校を卒業した加藤力之輔さんの作品は、湘南とラテンの風が絶妙に混じり合い、坂の途中のギャラリーで大きく深呼吸しているようだった。

Galleryジタン館前の坂
 
 
(構成・写真 関 幸貴)
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