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ミッケルアート開発者・橋口論さんと宮島永太良が語りあった! 後編 

 
 
橋口論さんと宮島永太良
 

◇橋口論(はしぐちりん)さんプロフィール

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1982:宮崎県宮崎市出身
静岡大学発ベンチャー企業・株式会社スプレーアートイグジン 代表取締役
ミッケルアート開発者/ホスピタルアート普及協会 代表理事
経歴
2001:静岡大学工学部機械工学科入学
2002:短期留学先のカナダでスプレーアートに出会い、帰国後独学でアートを学ぶ
2005:静岡大学工学部機械工学科卒業
2007:静岡大学大学院理工学研究科博士前期課程修了
    静岡大学発ベンチャー企業・株式会社スプレーアートイグジン設立
2010:ミッケルアート開発
2013:日本認知症ケア学会石崎賞受賞
2014:日本認知症予防学会浦上賞受賞
2017:ミッケルアート映像版考案
2018:ミッケルアートキッズ版考案

ミッケルアート

(写真提供:橋口論さん ミッケルアートを見るみくら保育園の園児たち)


☆橋口論さんが、ミッケルアートキッズ版への思いを語った♪


前号からの続き…

宮島永太良(以下M):ミッケルアートキッズ版を開発した動機は?
橋口論さん(以下H):きっかけは、娘が成長していく姿を見て、今しかないと感じたためです。

M:キッズ版はいつ頃から始めたのですか?
H:約1年半前です。

M:保育園とどのようにして繋がったのですか?
H:まず保育所指導指針や保育士になるためのテキストを読みました。次に、保育業界とは全くツテがないので、近所の保育園に電話して、「現場の声をヒアリングをさせて頂きたい」とお願いしました。静岡の次は東京の保育園にヒアリングを行いました。ある先生から東京都民間保育園協会の賛助会員に推薦いただき、2019年4月に入会させていただきました。

M:訪問先の保育園の反応はいかがでしたか?
H:正直、園長先生方のお人柄に救われました。いい人達に出会えました。丁寧に対応してくださる先生方に感謝の気持ちでいっぱいです。

M:私も知っている保育園や幼稚園があるので紹介させていただきます。ところで成果は?
H:2019年10月15日の時点で24ヶ園にキッズ版を導入いただいています。正直、現在もキッズ版は完成している仕組みではありません。開発途中です。それでも皆様、私達の情熱を買ってくださり、「導入したい」とおっしゃってくださいました。この気持ちにお応えするために、私は2つの目標を立てました。1つ目は、この24ヶ園できちんと1年間仕組みが回るかことを最優先にする。2つ目は、私自身、100園訪問し、1000名の保育士様のアンケートを集め、来年の日本保育学会に発表することです。現在88園を訪問し、712名のアンケートを集めました。

橋口論さん

M:ヒアリング訪問先の園では、どの様なことをするのでしょう?
H:園長先生の保育感を聞きたり、ミッケルアートの構想にアドバイスをいただいています。私は、現場の価値観を知ることが重要だと考えています。

M:その場合、保育現場は見るのですか?
H:はい。園によって様々な考え方があるので、とても興味深いです。

M:子どもたちにはどの様な絵が好まれやすいですか?
H:昆虫系は人気ですね。しかし、子どもは、色んなジャンルのアートに興味があるといったほうが合っているかもしれません。

M:直接見られないことが多いと思いますが、橋口さんは実際の園での活用方法をどの様に知るのですか?
H:園から子どもたちの様子が分かる写真や動画をいただくことがあります。それを見ていると、子どもたちがアートを通じてどのように楽しんでいるのかを見ることができ、ホッとします。

M:やはり絵から入るって大事。子どもは、言葉より絵で見せた方が理解してくれる場合がありますね。
H:そうですね。言葉、音楽、写真、イラスト、アートなど、いろんなアプローチがあっていいかと思います。子ども一人ひとりによって反応は様々ですからね。また、保育士さんの発想も面白いんですよ。例えば、「温かい月を描いて欲しい」「料理ができるまでのプロセスを描いて欲しい」など、現在キッズ版だけで400種類のアートを描きました。

橋口論さんと宮島永太良

M:キッズ版の可能性も大ですね。
H:ありがとうございます。色んな園の方にお会いするなかで、キッズ版の可能性が見えてきました。私たちは、「このアートはこう使います」などカリキュラムを作る気はないんですよ。カリキュラムの代わりに、事例集を作ります。例えば、同じアートでも、東京と大阪の園では、活用方法が違うと思います。色んな園の取り組みが事例集になっていけば、みんなでそれを共有することで、気づきが増え、保育の質の向上に繋がると期待できます。

M:ところで、高齢者と子どもの感性って似ている気がします。
H:どんなところでしょうか?

M:例えば、「マルタのからだステーション展」に展示した間違い探しや絵合わせパズルは、高齢者にとっては脳トレや認知症予防にもなり、子どもにとっては集中力や観察力を養うことができるのではないかと思います。きっと同じモノでも世代によって効果が違うのでしょうね。
H:そうですね、見る人によって、いろんな捉え方ができるのは、アートの特徴だと思います。高齢者は思い出を語り「懐かしい」と話し、子どもは知っていることを「知ってる!」と言いますね。

M:そうか、ミッケルアートの場合は変に世代分けしない方が良いのかもしれないですね。
H:そうですね。アートは知識で考えるよりも、遊び感覚で見る方が楽しいかなと思います。今後、これから小学生が友達の家でファミコンをやっているアートなどを増やそうと思っています。まさに、私たち世代の少年時代のミッケルアートです。これは熱いと思いますよ。例えば、保育園にそのアートが飾ってあったらどう思いますか?子ども迎えにきたパパが、子どものように我が子に少年時代を語ると思います。それを見ている子どものワクワクした表情が想像できます。私の娘は、小学一年生ですが、最近「パパの小学生の頃の話を聞かせて」と言ってきます。子どもにとっては、面白いのでしょうね。

宮島永太良

M:娘さんとの会話が作品制作に影響しますか?
H:とても参考になります。娘もキッズ版の開発に参加しています。アートを描く時は、保育士と保護者と子ども、この三者の視点でバランスが必要です。大人が中心になる絵だとしつけのツールになってしまう可能性があるからです。いろんなアートを娘に見せて、その反応を見ています。

M:そうしたことも含めて絵に関わることって簡単ではないですね。
H:そうですね。非常に地道な取材とトライアンドエラーの繰り返しです。

M:ちょっと違うかもしれませんが、最近、世の中がミッケルアート化している気がします。
H:どの様なことからですか?

M:昔の美術鑑賞は、印象派の絵があって美術史的なことを学ばせる流れですが、最近は企業が社員を美術館に研修に行かせる様です。それってミッケルアートが取り組んでいることに似ていて、絵を通じて会話を生み、絵をどう感じるで観察力や感受性を養うとか、絵の新しい役立ち方をしてきたんじゃないかな。
H:なるほど。アートを見た時の人の感じ方は、その人の個性が出そうですね。

橋口論さんと宮島永太良

M:やっぱり大事なのは、人と人とのコミュニケーション。それが不足する社会を考えると悪循環が続き、離職者が増えそうです。
H:そう思います。コミュニケーションが希薄になると、ふとした時に事故が起きるかもしれません。また、「あの人と合わないから、私辞めます」と離職に繋がるかもしれません。

M:それが、初期段階でミッケルアートをはじめ様々なアートの力で防げたら良いわけだ。一般財団法人「健康とアートを結ぶ会」を立ち上げる時、「アートを心のサプリメント」にと言う標語を考えました。これからもその思いは大切にしたいです。
H:とても大切だと思います。私は理系なので、表面的には、アートを通じて、人の感情を揺さぶり、行動に繋げることでいいと思います。その要因となるロジックを整理しておけば、再現性が高まると思います。今後も現場を歩き続けます。正直、毎日敗北感でいっぱいですよ。地道に行動しながら、道を切り拓いていきます。

M:橋口さんとのお話は濃密ですね。また、違う機会にお会いできればと思います。今回はどうもありがとうございました。

 

終わり

 
(構成・写真/関 幸貴)
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