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Friendsには、ジャンルを問わず宮島永太良の友人知人が登場!
毎回、親しい視線と言葉で宮島の実像に迫ります。

今号は、小説家の長谷川純子さん書下し最新エッセイを掲載!

◇ 前号 10月 更新:編集部とのQ&A ►

 長谷川純子さん

◎長谷川純子(はせがわじゅんこ)さんプロフィール

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神奈川県横浜市出身。
1966年2月4日生まれ、水瓶座、AB型。
89年、セツ・モードセミナー卒業。
在学中からイラストレーターとして雑誌等で活躍。
その後、コラムやルポを書き始め、02年には小説家としてデビュー。
現在は各誌で作品発表。 プライベートでは新婚1年目。
《刊行歴》
2004年05月:短編集『発芽』マガジンハウス
2006年02月:書下し長編『孤独のいいなり』幻冬舎
2006年08月:短編集『はずれ姫』新潮社
また短編「無精卵」(『発芽』所収)が、現代女性作家アンソロジー『インサイド』(講談社インターナショナル)に掲載されている。
 

「宮島さんの水色」

長谷川純子

 私は宮島さんの描く「水色」がすきなのである。
 晴れた空にも、また澄んだ海の底にも見える不思議な「水色」の世界は、宮島さんそのもののようである。

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 宮島さんの絵は、とても独特な「イノセント」*に満ちている。 顔のない人物たちが穏やかに談笑しながら空中(水中)散歩して、彼らを包む幸せなリボンのように、金色の魚達が流れる空間。 花にも光にも見える不思議なシンボルのきらめき地上に近代的なビルの森が出現し、見上げる空には巨大な月が昇るがごとく、お弁当箱の梅干しが瞬く。国籍不明、現存不可能、摩訶不思議でありえない、クレージーな世界である。

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 ああ、なんてピュアなイノセントと自由に満ちた素晴らしき混沌。 こんな世界が本当にあるのなら、そここそ「イノセントワールド」と呼ぶしかないだろう。 こんな無邪気で出鱈目な世界を描く宮島さんの「中身」は、きっと普通の人には解らない、不思議な宮島秩序がいりみだれているのだな。 宮島脳に搭載された宮島アイには、本当に水中を人が歩き、弁当箱が登る空が見えているのに違いない。

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 と、いう訳で、最初にお目にかかったのは、恐らく10年くらい前だが、最初に絵を見てからお話をしたので、絵の印象が強かったおかげで「きっとこの人は、とってもピュア系で、ぼぉっとした不思議ちゃんなんだろう」と勝手に決め付けていたのであった。 で、第一印象どおり、ほぼ当たっているような、宮島さんの独特ぶりは、やっぱり「イノセントな自由」に満ちていて、話していると、「なんだかこの人、地上から常に10センチくらい浮いてるみたい」と思うのだった。

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面と向かってきちんとお話するのが恥ずかしいから、ついシモネタをぶつけて牽制してしまうのである。 でも、もうシジューも過ぎた人妻となった身なので、そんなおろかしい癖はつつしもうと反省している)、個人的に長く話したり、どこかに行ったりという事もなかったのだが、一度だけ秋葉原のメイド喫茶に同行した事がある。

 それは5年ほど前。 メイド喫茶がブームになり始めの頃で、たまたま私が雑誌連載のルポで、メイド喫茶に潜入して、一日メイドさんとして出勤した話をしたのがきっかけ。 当時「草むらに座る制服姿の女性」(!?)の写真シリーズを撮っていた宮島さんが「ぜひメイド喫茶に行ってみたい」と、好奇心満々イノセントな目をキラキラさせて所望されたからだ。

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で、2人してメイド喫茶に赴き、名物の「オムライスにケチャップ書道」してもらい「何を書きますか?」とにこやかに訪ねるメイドさんに向かって、しばらく熟考した後「紅葉」と答えた宮島さんは、やっぱり常人とは10センチ浮いた「イノセントワールド」の人なのだった(普通、ここは「萌え」とかありきたりなオタク用語を書いてもらっちゃうのですよね。常人の常識としては)。  今回、このような場に登場させていただける光栄に乗じて、宮島さんと自由が丘の某バーにてじっくりお話させてもらった。 描く事も書く事も好きで進んだ道なのに、描く(書く)のが苦しい、いつも狭いトンネルにいるみたいだ、と個人的悩みを抱える私。  宮島さんの「自由でイノセント」な創作活動ぶりが、羨ましくてならず、その秘密をさぐってやろうって卑屈な魂胆である。  しかし宮島さんと話していると、ついついほんわかワールドに持っていかれ、いつのまにか、あの異次元空間の「水色」に包まれた気分になってしまい、自分の抱えるプロぶった半素人のつまらん苦悩なんて、なんの意味があるのかわからなくなってくるのだった。

長谷川純子さんと

 印象的だったのは、もしも明日世界が終わって、誰もいなくなったら、描かなくなってしまうかもしれない」と言っていた事だ。私は色んな雑音や雑多なしがらみがなくなった「無」の世界に置かれてこそ、突如一切の迷いが消えて無我夢中で書ける(描ける)気がしていたので驚いたのだった。 そう、宮島さんは「与える」人で、私は「個の世界」を追及したいタチ。 宮島さんの「水色」を見て不思議に心が落ち着くのは、宮島さんの世界が外の人に向かい「どうぞ、お入りなさい」と優しい居心地のよさに満ちているからなんだなあ、ただの無邪気とピュアと不思議ちゃんではないんだなあ、と理解した私なのだった。

「イノセント」*:純粋・清浄

撮影協力:水景工房

by Sekikobo
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