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Road : つれtakeロード

 

淀屋橋から…

 2005年の秋、宮島永太良は、大阪・淀屋橋の画廊で個展を行った。  その会期中の夜のこと、宮島は付近を散策しようと出かけたが、途中で道に迷い、長い間徘徊したことがあった。  決して酔っていたわけではないのだが・・・

淀屋橋

 あとで調べると、淀屋橋から北浜に向かう地域だった。  あれから12年たった今、この間にも何度も来てはいるが、初心にかえったつもりで、その痕跡を辿り、もう一度探索してみた。  しかしながら、2005年の夜は忘れがたいものだった。  暗さも手伝い、非常にミステリアスな空間をさ迷っていたようだと宮島は回想する。  普通に見れば、普通のビル街なのだが。

旧大阪教育生命保険ビル

 話はそれるが、今から40年以上前の欧米で、プログレッシブロック(通称プログレ)と呼ばれる音楽が流行したことがあった。  その名の通り、前衛的、先進的なロックという意味であり、当時は珍しいシンセサイザーなどの楽器を使い、クラシックにも通じるスケールの大きさと新しい音を生み出した。  それまでのポピュラー音楽では聞かれなかった曲調、どちらかというと現代音楽のようなものもあり、ミステリアスな雰囲気のものも多かった。  アーティストでいうとピンクフロイドやキングクリムゾン、エマーソン,レイク&パーマー等がいる。  宮島はある時、このプログレッシブロックと呼ばれる一連の音楽を聴いた時、なぜかこの淀屋橋付近のことを思い出してしまった。  よってこの地域を「プログレ地区」と勝手に呼ばせてもらうことにする。

淀屋橋センタービル 神宗

 ビルのあいだ間に、さりげなくパブリックアートが充実しているのも、この場所の不思議の一つだが、それがミステリアスな感じを増幅させていた。  加えて、大きな要因の一つに、産業のブースを扱っている某ビルがある。  その1階には、全国に支店を持つ老舗の乾物メーカーが入っている。  江戸時代から老舗らしく、その時代を表すようなブース型の店舗だ。  さらに、浄瑠璃の人形まで置いてあり、これが当時の宮島の記憶に粘りついた。  今は一体だが、当時はもっとあったような・・・曖昧な記憶ではあるが、江戸時代の恰好をした等身大の人形が2〜3体あったような気がしてならない。  あるいはまさかとは思うが、人形の真似をした人間だったのかも?!  実はこの日も大阪駅前で、無言で募金を呼びかけるマネキンの真似をしながら微動だにしない男女ペアを見た。  だから、あり得ないことでは ない。  しかし当時の時間帯で、それをやったら怖すぎる。

Holls Cafe カフェオーレ

 こんな暗澹とした徘徊の中で、その後すごくカラフルな店内のカフェを見つけた。  当時入ったわけではないが、カフェも二番目くらいに記憶に粘りついた。  その後、この地域に訪れた時に、再びそのカフェを探してはみたが見つからなかった。  記憶の通り、御堂筋沿いを探していたが見つかることはなく、一時は幻ではないかとさえ思った。  ところが、昨年の秋に大阪に来た際、偶然見つかったのだ。  場所も、プログレ地区の領域なので間違いない。  しかし御堂筋沿いはとんだ勘違いで、実際は土佐堀通沿いだった。  幻でもなんでもなかったのだ。

 12年前から存在を知りながら、今回宮島は初めてこの店に足を踏み入れた。  初めて味わうこの店のメニューはカフェオーレ。  時の経つ早さをしみじみと感じてしまう。  関西地区ではよく見るカフェチェーン店の一つに過ぎないといえば過ぎないが、この店舗はちょっと雰囲気が違う。  店内がすごく広いのだ。  また、元はカフェでなく、会社のオフィスだったのではないかという雰囲気が漂い、店内には絵画が充実している。  そして何より居心地が特別に良い空間だ。  そう思う人が多いのか、タブレット等を持ち込んで仕事やら趣味やらに集中しているお客さんの姿もある。  でも、この店にいることを今自分ほど感動している人はいないだろう、と宮島は密かに自己満足していた。

長く続く塀 大阪市立愛珠幼稚園

 夜の記憶ではないが、個展開催時間の昼間、お客さんに連れていってもらったうなぎ屋も、強烈に覚えている。  当時の記憶だと、とても広大な和風の木造建築の店で、中には畳二十畳分くらの部屋があり、その周囲にお膳がたくさん並んでいる形だった。  今回、記憶通りの和風の木造建築物があったので、間違いないと思って長い塀沿いを歩き、入り口で表札を見ると、なんと幼稚園だった。 うなぎ屋と信じた場所が幼稚園だったのである。  とすると、かのうなぎ屋はどこなのか?  宮島の記憶よりかなり遠い所まで歩いたのか?  あるいはこの幼稚園の近くに店があったのだが、この建築物の存在感があまりに強かったので、ここに吸い込まれたような気がしてしまったのか、答えは未だ謎である。

御堂筋

 淀屋橋から北浜・プログレ地区。  すぐそばには安治川に囲まれた中之島も見える。  今日、過去の体験もなく、何も疑問もなく歩いていれば、川を望む、本当にごく普通のビル街だ。  ただこの取材の日、宮島以外にもカメラを持ってあちこちを撮影していた人が、他に3人ほどいた。  ということは、やはりこの場所は人を不思議に捕らえてしまう何かがあるのだろうか。

 *次回は宮島が大阪の旅情にはじめて目覚めた地域を辿ってみたい!

 

(文・写真 / 宮島永太良)

 
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