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加藤力之輔さんスペインを語る! 後編

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加藤力之輔さんアトリエで
 

◎加藤力之輔(かとうりきのすけ)さん プロフィール

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画家。 1944年6月13日神奈川県横浜市生まれ、双子座、A型。
1972年からスペイン国立プラド美術館で4年間
〈ティツィアーノ〉を模写研究。
マドリードの美術研究所で人体デッサンの修練で
モノの見方を学び続ける。
日本、スペインで多数個展開催。
2004年より覚園寺(鎌倉)・新善光寺(京都)
・梅上山光明寺(東京)で「異文化空間展」開催。
同時代ギャラリー(京都)、印象社ギャラリー、
文藝春秋画廊、小川美術館(東京)等でも発表。
現在も京都・スペインで制作。

 

今号では長い間スペインに住み、描いてきたからこそ知り得た数々のエピソードを語っていただきました。

 

月刊宮島永太良通信編集部(以後M):エル・エスコリアルのアトリエでは、大作ばかり描いていたそうですが、大きさは、どのくらいでしたか?
加藤力之輔さん(以後K):花をテーマにした小さなサイズで195cm × 130cm、大きなのは複数の人物を、320cm × 520cmに描きました。  ただ、持ち運びが大変だから130cmを4枚に分けました。

M :やはり、アトリエのスペースの影響ですか?
K :あります。  空間があるから心理的にセコセコしなくなり、心のままに描いていました。  そう言えば、少し脱線しますが、地元で僕のアトリエは、「ミミズクの家」と呼ばれていました。

M :何故、「ミミズクの家」なのですか?
K :建築に携わった職人たちが、作った証に暖炉の煙突の上にミミズクを取り付けたのが、始まりらしいです。  しかし、12年間いて、ほとんど大きな作品ばかり描いていました。

M :小さな作品は描かなかったのですか?
K :そんなことはありません。  小さな風景画も描きました。  でも、日本で描くのとは、仕上がりが随分違ったと思います。

大作

M :どんな感じですか?
K :絵というのは、小さくても広い場所で描くと強い絵ができます。  理由はいくつかありますが、まず向こうのアトリエには椅子がなく、立って描きます。  そうすると画家は能動的になり、制作過程を離れて自作品を客観視します。  小さくても、近寄れば何が描いてあるのか分かるけれど、遠くから見ると何が描いてあるのか分からなくなってはダメ。  また、スペインの人は絵を離れて見るので、小さくても存在感を出さないといけない。  何が描いてあるのか分からなければ致命的になります。  だから、小さな絵も必然的に強い作品になるのです。

M :その強さを知ったのは?
K :研究所でデッサンを学び直し始めて1ヶ月過ぎた頃に線を描いていた時です。  日本の人は線が綺麗に描けるけれど、隣のスペイン人は無骨な線をゴチゴチとしか描いていない。  それである時、二つを並べて1m程離れて見たら、僕の線は全然見えなくて、ゴチゴチのスペイン人の線には存在感があり、形になってしっかり見え、驚きました。  これが日本画とは違う洋画の根本的な違いかなと思い至りました。

M :それで洋画は離れて見ても存在感があるのですね。
K :僕は構図も含めて、遠くから見てもしっかり分かる絵が好きです。

和室の作品

M :建物、住居の違いも大きく影響しそうですね。
K :アトリエに椅子がないことには本当に驚きましたが、広さと共に天井が高いことも制作に影響しています。  例えば、ベラスケスやその時代の画家は、人や群像を描くのは絵の三分の一ぐらい、あとは空間だけです。  そうなると、余白が多い感じがして、日本人ならその空間を埋めたくなるはずが、向こうの古い家に行って見たら、天井が高い作りで空間もあり絵を置いても違和感はなく、かなり大きい絵だって飾れるのです。

M :それが、スペインで絵を飾る環境の原点ですか?
K :そういうことです。  もっと言えば、日本家屋の場合は光がアチコチから入って来ますが、南欧の家、特にスペインは、光を入れたくないから、窓は小さくてしてあります。

M :何故、光を入れたくないのですか?
K :暑いからです。  だから、壁がたくさんあって絵が飾れるけれど、柔らかい光は決して入らず、強い光がスッ、スッと入って来ます。  でも、暑いと言っても、マドリーは乾燥しているので、エアコン普及率は、そう高くはありません(笑)。

美術雑誌

M :その状況を意識したのは、何時頃?
K :ある程度、暮らしてからです。

M :環境によって作品は変わりますか?
K :絵を学ぶ課程がそうです。  まず石膏デッサンをする場合ですが、その時の対象はギリシャ彫刻、次に人物を描く時、モデルの日本人に西洋の容貌を求めても無理。  でも、向こうへ行けばギリシャ彫刻そのままの人がいるし、胸も厚い。  今は日本の女性も体形的に変化してきているけれど、まだ西洋人と比較すれば華奢。  だから、日本の場合、石膏が終わって生身の人物になると、先生がデフォルメして描きなさいと指導することもあると聞きます。  日本人をギリシャ彫刻風にするにはデフォルメするしかありませんが、スペインでは、その必要がない。  また、ルノワールが裸婦を描いた可愛い顔をして、お尻がドーンとした絵がありますね。  あれ、日本ではデフォルメして描いたと教わったけれど、スペインや南フランスに行くと実際に、そうした容姿の女性が実在しています。

M :顔は可愛く、体は大柄な女性ですね。
K :やはりデフォルメじゃないと思います。  ルノワール、顔は普通に描くのだから、体も同じだと思うのが自然ではないでしょうか?

M :なるほど、国や地域での環境や人種の違いは大きいですね。
K :スペインの場合、場所によっては50キロ先まで見えます。  視野もかなり違う。  マドリーで地平線が見えるし、海に行けば、水平線も見える。  青い空がある。  植物も、日本の水分を多く含んだ濃い緑ではなく、水が少ないので葉は薄く、それを通すほど太陽光は強い。  全く違う環境です。

M :加藤先生は、プラド美術館と研究所だけで学んだのではなく、スペインそのものからたくさんのエッセンスを心身で受けたのですね。
K :そう思います。  だから、僕の使う明るい青色は、スペインで毎日のように見ていたから自然に、自由に描けるのです。  あの空の色を40年近く見ていたら、自分の色になってしまいました。

作品

M :大磯に湘南の海を描いている素敵な画家さんがいます。  とても爽やかな作品ですが、そこで使われている青は加藤先生のより、やや白が入っている気がします。  あれが日本の青なのかもしれません。
K :スペインとは違い水気を含んだ青でしょうね。  自然だけでなく、違いは顔の造作でも言えます。 西洋人は鼻が高くて目が引っ込んでいるでしょう。  だから、視野が日本人より狭く、横の動きに弱いけれど、正面からしっかり見るので、フェンシングは強いと言われています。

M :視野も違う?
K :例えば、オランダへ行ったら、国土が低地だから空が広い感じを受けます。  だからこそ、オランダの風景画は雲が大きな役割を果たしているのです。  色の話に戻れば、ルネッサンスの頃は外で絵を描かなかったから、テーラベルデと言う緑があったけれど鮮やかな緑は少なく、新しい絵の具が発明され、最初に鮮やかな緑を印象派に人たちが使い始めたのです。  それまでスケッチ、風景画はなく、あくまでも人物画が主流で背景に風景を入れた感じだったのです。

M :では、西洋で風景画が成立するのは?
K :印象派以後、発明された絵の具をチューブで外へ持っていけるようになったからです。  画材の変化に伴ってですね。

M :日本の方が風景画の成立は早い?
K :水墨画もあり、雪舟を始め、日本人は昔から風景画を描いていました。 その分野では歴史的に勝りますね。

M :まだまだお聞きしたいことがありますが、次の機会に譲ります。 
今日はありがとうございました。

終わり

 
京都市東山区のアトリエで
 

◇加藤力之輔さん個展情報

「旅の中の旅」展
会期:
2017年2月27日(月)〜3月11日(土) 5日休廊
会場:GALLERY olive eye
所在地:東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル3F
TEL/FAX:03-3575-0080

(構成・写真 関 幸貴)
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