TOPRoad : つれtakeロード

Road : つれtakeロード

 

晩秋の等々力渓谷を散策…

 秋も終盤に近い11月下旬、宮島永太良は東京23区内唯一の渓谷であり、東京都の名勝にも指定されている「等々力渓谷」を訪れた。  場所は東急大井町線等々力駅から徒歩5分弱。  
ゴルフ橋という赤い色の橋が目に入る。  ここが、等々力渓谷公園の入口だ。

等々力渓谷入口で

 「もう20年ほど前でしょうか。  山梨県に旅行に行った時、そこでの自然にあふれた風景にふれ、東京でもこんな場所に気軽に出かけられたらいいな、と思ったことがありました。  
ところが家に帰ってテレビを見ていたら、東京23区で唯一の渓谷というのが紹介されていて、山梨県の風景とイメージ的に重なったのです。  それですぐに現地へ行きたいという衝動にかられました。」  実際に行ってみると、本当に山梨に引き返したような気持ちになり、ここが東京23区の中であることを、ひと時忘れそうになった。

天使の階段

 ゴルフ橋から階段を下ったところには谷沢川が流れ、川に沿い約1キロの遊歩道が続いている。  遊歩道とはいっても舗装されているわけではなく、ほぼ自然の道に近い。  まず目に飛び込んできたのは「天使の階段」などとも呼ばれる薄明光線だ。  日光が雲の間をぬって、階段のような木漏れ日を注ぐ光景を見ることがあるが、ここでは渓谷のまわりの木々から差しているのが何ともいえぬ絶景であった。  この日は晴れていたが、早朝まで小雨が降っていて、そのせいか、まだ残っている微妙な水蒸気のいたずらも手伝って、このような絶景が生み出されたのだろうか。  日の光は川の水面にも反射し、漂っている鴨たちも気持ちよさそうである。

遊歩道で

 場所々々で滝のようになる川の水の音も、都会の喧騒を遮り、まるで人里離れた山の中に来たかのような錯覚を思わせる。  とは言え、この場所も近年人気が高まり、この日も西洋人も含め、わりと多くの人が散策を楽しんでいた。

 遊歩道を進んで行くと、真言宗中興の祖・興教大師が開いた「等々力不動尊」があり、今回も久々に参拝をした。  そしてその下には「竜の口」から流れ落ちる不動の滝がある。  等々力という地名は、この滝の音が「轟いた」ことに由来するとか。

縁台

 宮島は昔ここに何回か来た時のことを回想する。
  「初めて来てはまってしまい、その後数回来ているうちに、ある着想を得ました。この渓谷は川沿いでもあり、どちらかというと湿気が多い場所なのですが、私は幼い頃からこうした場所にある苔むした石とか、シダの葉が乱れ生える光景を見ていると、変な『怖さ』を感じるのです。  あえて喩えるなら、普通の人が蛇とか毛虫を見た時の怖さに似ているでしょうか。  だからといってこうした光景を目にしたくもないというのではなく、この中で女性の写真を撮りたいと思いました」。

 宮島はここで2回、女性モデルを撮影したことがある。  女性がこうした場所に自然と接し合いながらただずんでいる光景は、宮島からすると「美女と野獣」に近い感覚があったという。  「美女と野獣」というのは一種の不条理であるが、そこに学校の体育の授業という全く次元の違う要素を加えることで、さらに不条理感が増すのではないか。  そういう理由で、体操服を着た女性を撮影することとなった。

宮島永太良 宮島が撮影した女性モデル
                    宮島永太良撮影

 「出来上がった写真は何度か発表したことがありますが『かわいい』といった様な感想が多く、自分が感じている『美女と野獣』感、不条理感は、あまり伝わらないことがわかりました」。  こうした場所が持つ変な怖さというのは、どうやら宮島特有のものであるようで、その要因は現在も解明中という。

 そして、この日の最大の収穫は、真っ赤に紅葉した一本のモミジであった。  午前中から快晴になったこともあり、このモミジが場所によっては光って見えるのである。  背後に後見人のように存在する竹林の色合いが、またこのモミジの色を引き立てている。

 紅葉の時期、湿度、温度、背後の竹の色合い・・・全てが一日、否一時間ずれただけで、絶景の機会を逃すこともある。  その意味では今ここでモミジを見るための条件が、偶然にも完璧だったと言わざるを得ない。  まさに自然が用意した晴れ舞台だ。

紅葉

 久々に来た等々力渓谷。  しかし宮島の経験ではこの日が一番美しかったという。  
「冬には雪景色を、そして春には満開の桜を見てみたい」  都内に潜むオアシスは、今後も新たな楽しみを提供してくれそうだ。

 

(文 / 宮島永太良・写真 / 関幸貴)

 
Copyright © 2010- Eitaroh Miyajima. All Rights Reserved.