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カミギシ・ヒロシさんと宮島永太良の秘宝館的フリートーク♪

 

カミギシ・ヒロシさんと宮島永太良
 

◎カミギシ・ヒロシさんプロフィール

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建築デザイナー、ギャラリスト、「立石秘宝館」主宰。
神奈川県横浜市出身。
宮島永太良とは20年近い付き合い。
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ユニークな視点でギャラリーの存在意義等を、カミギシさんと宮島が語った!

 

宮島永太良(以後M):今日はよろしくお願いいたします。 まず、アーティストの肩書きについてお聞きしたいと思います。  私は自分を表すのに「画家」と言うことに抵抗を感じ、「美術家」にしています。  カミギシさんはいかがですか?
カミギシ・ヒロシさん(以後K):僕も近いです。  分野を問わず世の中には様々な人間が存在しています。  だからこそ、カテゴリーに縛られる肩書きに意味はあるのかなと思います。  私も絵だけで表現しているワケではなく、例えばこの建物/ギャラリーも含めて自分の作品だと捉えています。

ギャラリー立石秘宝館

M :そこです。  私自身もアートの世界に身を置いていて、絵は好きだけど、ただ描いて暮らしていきたいワケではなく、広い意味でアートを軸にした可能性を探り、将来的には子どもたちやアーティストにも夢を持ってもらえる状況をつくりあげると同時に社会貢献ができればと考えています。
K :未来をイメージするのは大事だし、肩書きに疑問を持つことと同様に既成の存在に対しても、もう一度問い直してみることも重要だと思います。

M :例えば、何に対してですか?
K :近場で言えるのはギャラリー。  アーティストにとってのギャラリーの存在理由とは?  そこでの作品発表をどう捉えるのか、僕の視点は、これまでとは少し違うかもしれない。

M :私は、ある意味、ギャラリーはアーティストの集大成の場所だと考えているけれど、カミギシさんはどう思っているのですか?
K :DMを1000枚出しても、そうそう人はギャラリーに足を運ばないし、期待に応えてくれる人は多くはいません。  だからこそ、ギャラリーは自由に描いてきたアーティストにとって、己の作品を本質的に見直すための「独房」であれば良いと思っています。  誰が来るとか、お客さんが何人来たとか、何点売れたとかを考えないで、描いた自分の作品としっかり向き合うことこそが最重要課題。  でも、そう考えている人は少ないね。

カミギシ・ヒロシさん

M :確かに作品に関係なくお客さんさえ、たくさん来れば良いとは思いません。  でも、その場合、アーティストはギャラリーでどう過ごせば良いのでしょう?
K :自作品を客観的に見て、宇宙と自分がどれくらい繫がっているのかを自覚するのを最優先し、内省することに尽きます。  僕もギャラリーを営んでいるけれど、その思いを理解できないアーティストだと、こちらのテンションも下がるし、僕の思いを改めて説明したくはないですね。

M :では、作品展示だけをして誰もお客さんを呼ばなくてかまわないのですか?
K :もちろん、お客さんの数より借りてくれたアーティストが成長するのが一番だと思うし、そうしたギャラリーの使用法が最高ですよ。

M :使う側にとっても最高!  そんなことを言うギャラリストって、ほとんどいない。  近いことを言う人はいるけれど、最終的にはどれくらい売れたかとか、お客さんは何人ぐらい来たかを話題にします。  以前、冬のバーで個展をやらせてもらった時、暇な時期だから、店が私に集客を頼っているのが見え隠れして、とても嫌な感じを受けました。  でも、あの時に客が来なったのは、今でも店側の責任だと思っています(笑)。
K :そう、ギャラリーは自分を鍛える「道場」である。  とにかく、自分自身を見直すことに尽きます。

M :やはり修練の場ですね。  では何故、京成立石にギャラリーをオープンしたのですか?
K :立石、決して地の利は良くありません。  でも、どんなに立地が良くて、周囲が絵に無関心、無関係では意味を持ちません。  本気で見たいと思っている友人知人は、遠かろうが近かろうが、場所に関係なく見に来てくれます。  なんだか、この地がリトマス試験紙みたいですね(笑)。

カミギシ ヒロシさん、個展会場で

M :その状況で、カミギシさんはどんな感じですか?
K :誰とは言わないけれど、「自分が! 自分が!」と強く主張するアーティストもいるじゃないですか。  つまり自分があっての作品と言いたいんだろうな、きっと。  でも、順番が違うと思う。  そうではなく、僕にとっての作品制作は宇宙とか、人智を超えた大きな意思が色々な人の体を借りて表現をすることであり、その結果として誰か見る人の目にとまって感動を与えるんじゃないのかな?

M :誤解を恐れずに言えば、私も若い頃は自分を見せることに一所懸命だったから、「私が!」の意識は強かったですね。  でも、年齢を経るに従って意識は変化しています。
K :そう、年齢も関係あるね。

M :近年、私もカミギシさん同様にギャラリー運営に携わっているけれど、自分のトコロで個展開催をした人は応援したいですね。  これも加齢のせいかもしれない(笑)。  でも、カミギシさんのユニークな考え方って何処から来ているのでしょう?
K :ミヤジー(宮島永太良の愛称)もよく知っている「ギャラリー代々木」が僕のホームグランドで、思考をよく理解してくれていました。  そこは代々木駅近くで人通りの多い場所にあり、行き交う人がガラス越しに中をチラ見して行くようなギャラリーでした。  だから、入らず絵を一瞬見ただけの人が、家に戻ってお風呂に入りながら、「ひょっとしたら僕の空の絵を思い出しているかもしれない」と、自分勝手に考え始め、年1回の個展では物足りなくなった頃、オーナーがその気持ちを汲み、個展を半年に1回のペースにしてくれた。 あれ以来だね。

立石秘宝館で

M :私にとってもギャラリー代々木は縁があり、初個展「郷地」を1999年に開催した画廊。  今考えると、あそこのオーナーはアーティストの気持ちを、よく理解していましたね。  ところでカミギシさんの初個展は何処でしたか?
K :人に見せるためには1996年、横浜の外人墓地の近くにあるエリスマン邸の地下にあるギャラリーが初めてでした。  まぁ、アーティストは初個展からギャラリーとの関係性が生まれるワケですから、何時如何なる時でも、自分自身、自作品と真剣に対峙して欲しいですね。  また、見る側もチラ見だけで通り過ぎるのではなく、より中へ入って来てくれたら面白いと思いますよ。

M :そう言えばギャラリー代々木で個展をやっている時、近くで工事をやっているバングラデシュの人たちが興味津々な様子で入って来てくれたことがありました。
K :それこそが良い出会いです。  作品制作と言う孤独な作業の後、ギャラリーで思わぬ出会いがあるのは得難い経験です。

M :そうか、ギャラリーの存在意義は既定路線ではなく、アーティスト次第で大いに可能性あると考えれば良いのですね。  お陰で新たな考えに触れられました。  今日はどうもありがとうございました!

おわり

 
カミギシ・ヒロシさんと宮島永太良 立石秘宝館で
 
(構成・写真 関 幸貴)
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