TOPTalk : 対談

9・10月は、画家で大学教授の伊藤七男さんの登場です♪

個展、グループ展、発表法は違いますが、上海で作品展示をしたふたりが、前号では中国での美術事情について、今号では作品制作について熱く語り合います。

◇ 前号 9月 更新:中国での美術事情について ►

 伊藤七男(いとうななお)さんと那須伊藤アトリエ前にて

◇伊藤七男(いとうななお)さんプロフィール

 
伊藤七男 さん
滋賀県彦根市出身。
1953年8月10日生まれ、獅子座、AB型。
東京芸術大学大学院研究科修了
足利短期大学こども学科教授
足利工業大学大学院煙火学専攻 非常勤講師
個展、SPC お茶の水画廊等で36回、グループ展多数参加。
海外、ベルギー・韓国・中国で作品発表。
独自の絵画技法「ナナグラム」を提唱、今夏、その技法書を出版。

宮島永太良とは、あるグループ展で一緒になったことがある。
 

◎伊藤七男さんと宮島永太良が、作品制作について熱く語り合いました♪

絵画技法「ナナグラム」作品

宮島永太良(以下M):
少しお聞きしたいことがあるのですが…
伊藤七男(以下 I ):
何を聞きたいのですか?
M:上海美術館での個展に子どもたちが来てくれ、学校の課題で好きな作品を模写したそうです。  立ち会えなかったけれど、後から笑顔の写真を見て、どれを描いたか私にはすぐにわかり有意義だなと感じました。  これを日本でもやったら良いと思いますが、伊藤さんは絵への接し方についてどうお考えですか?

I :短大で学生たちに講義をするときに思い至ったことがあります。  絵画鑑賞をするにあたり、絵の実技を行わないと、理解不足にならざるをえない。  だから、好きなパウル・クレー*への憧憬も込め、鑑賞するための補助的な実技としてオイルパステルによる新技法『ナナグラム』を考案しました。

M:確かに描く人は、絵を見る時により深くその世界に入れる気がします。
I :絵を描く行為は誰も同じ、だから自身で制作することにより、体を通して抽象画で名を成したカンデンスキー*やクレーの世界へも近づけると思います。  ナナグラムはそのための技法と言えます。

伊藤七男 さんアトリエ内

M:ナナグラムの最終目標は?
I :ナナグラムは楽しく誰でもできる技法です。それが認知され、世に広がり、世代に関係なく人々に創作を楽しんでいただくことを望んでいます。

M:それは一般の人でも自身で描くことにより、絵画鑑賞の仕方がステップアップする方法と考えて良いのですか?  また、技法書を見るとかなり効率良く制作できるようですが、それも狙いですか?
I :その通りです。描くことで知らないうちに理解度は進み、より質の高いものを求めて制作に臨めば効果抜群です。  例えば、クレーの作品に○、△、□だけで表現しているのがあります。 一般の人が見れば、高尚なことをしていると考えるかもしれません。  でも、自身で同じ様な作品が描けたらどうでしょう。 論理ではなく感性でクレーを少しは理解できるかもしれません。 そして、効率的と言うことは、精神的にも無理なく制作に臨めると考えます。

伊藤七男 さんとの対談風景

M:確かに見る側の感性を高めることは、アートの次世代を構築して行くことに他なりません。  プロには修行が必要だけど、一般の人々も同じことが言える訳ですね。 そして、ナナグラムは伊藤さんの作品見本があるわけだから、真似をしても構わないのですか?
I :真似をしてもらって構いません。 究極、個性は別物。何時か必ず自分だけの表現になり得ます。  だから唐突ですが、宮島作品を見ているとカンデンスキーの影響を受けているし、色使いは現代的だと思いました。 私には決して使えない色。 そこに宮島君の独自性が感じられる。
M:油絵は高校時代から描いていましたが、作品はごく当たり前。 抽象画は全く知りませんでした。  二十歳を過ぎて、本で抽象画を見て衝撃を受けました。 それからカンデンスキーの作品を見て『何か変だ』と、最初は訳がわからなかったけど、それに惹かれました。

I :抽象画との出会いは遅かったですね。
M:はい。 しかも見たのは画集でははく美術理論書。 現代アートへは理論から入りました。

伊藤七男 さんのブラシ

I :やはり、ある程度学習しないと駄目、特に抽象画は最初が難しい。
M:抽象作品は見ると簡単そう。 でも描けるのかと言うと、それは別問題。
I :僕の場合は、太古の壁画が好きで真似して描いたけれど、出来上がった作品は何かが違う。  当たり前かもしれないけれど、そこから自分が置かれた環境、時代が大きく作品に影響しているのを強く感じ不思議な気持ちになった。
M:描いた人の時間、場所が変わると作品も変化します。 また、同じ絵を見ても日本人は感じないけれど違う国、民族の人が反応することもありますね。

I :そうです。 国、民族で思いが違うのだろうね。 それは中世の宗教画を見ても、バックボーンを知らない我々日本人が理解するのが難しいのに通じます。  つまり、中身がわからなければどうしようもないこと。  しかし、現代アートは表面のみ終始しているモノもあるが、宮島作品は文章的な物語があるので、きっと表面的な絵画の構造だけではなく、言葉が入ることでイメージが膨らむと思う。  それが個性であり、強さかもしれないね。
M:自己分析すれば体験的に深層から沸き上がったイメージと表面から掘り下げていったイメージ、両方が内在しているのかもしれません。

アトリエの伊藤七男 さん

I :それは絵画に言葉が必要かどうかの問題だけど、これは純粋に考えれば、言葉は無い方が良いのかもしれない、でも世の中が純粋だけで成り立っているかと言うと、そんなことはあり得ない(笑)。  確かに純粋なことは存在するけれど、色んなアプローチの仕方があって良いと思う。  僕自身を考えても色々と体験してきたからこうなっている訳。 だから、過去に縛られることなく挑戦し続ける姿勢が大切。  自分自身で作品も含めて固定したイメージを作らないことです。
M:確かに、あの絵が良かったから同様にと注文されることもあります。 でも、常に時は流れ、人は変化し続けているのだから無理な依頼。  つまり、絵は画一的な商品と違い画家の気持ちが入らないと作品として成立しません。  でも、逆説的に考えれば、自分から同じモノを描きたいと本気で思ったら、描けるかもしれません(笑)。
I :しかし、同じモノはできない。
M:絵画は、ただひとつの存在が基本ですからね。 最後の質問です。 伊藤さんの今後の抱負を教えてください。
I :人間は生かされていると思います。 私は絵を通して幼児教育の世界へ入ったので、ライフワークとしてその方面に寄与して行きたいです。  加えて自分の好きな作品も制作、硬軟の姿勢で発表し続けて行きたい。 日本の場合、売れなかったら好きなことをやり続けるしかありません。  ただ、現代アートの分野にいるので、過去の呪縛に捕われることなく、色々な可能性を試したいですね。 ところで、宮島君! 上海終了後はどうしますか?

伊藤七男 さんと展示作品

M:初めての個展から10数年が過ぎました。 現在の私は画家と言うより、社会に役立てる立場に居たいと考えています。  そのために自分の作品がどう使えるかを模索。 病気の方々、地球環境も含めた弱者へ手を差し伸べ、広く社会貢献が行えれば本望ですね。
I :
枠に捕われない目標、素晴らしい方向性です。 心から健闘を祈っています!

M:今日はありがとうございました。

by Sekikobo
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