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好評連載!
 都電沿線の秋を巡る…

荒川線の小さな旅 後編

 
宮島

 王子での不思議な思い出を語った宮島は、JR王子駅ホームと並行に位置する都電荒川線のホームから、再び三ノ輪橋行きの電車に乗り込んだ。  それにしても駅名を見ていると「大塚駅前」とか「王子駅前」のようにわざわざ「駅前」と付けているところは、電車というよりバス感覚だ。  電車を乗り換えるのでなく、「○○駅前につきましたので、あとは電車にお乗りください」という感覚である。そう、この電車は道路の上を主に走る、いわゆる「チンチン電車」と言われるものだ。  そう思って乗っていると、やがてチンチン電車とは思えないような広い、砂利敷きのJRと間違いそうな線路の上に乗る。  線路の様子も実にバラエティに富んでいる荒川線だ。

新型都電 都電

 次に下車したのは「荒川車庫前」 。  駅名通り、現在使われている車両が多数止まっているが、それに交じって旧車両も展示されている。  残念ながら平日のため、至近距離から眺めることは叶わなかった。  そして次の下車は、荒川遊園地前。 降りてはみたものの住宅街としか見えないこの場所は、駅名とのギャップが激しい。  少し歩くと運動場のある公園のような場所があるが、これがもしかして荒川遊園地か。  いや、そんなことはないはずだ。  遊園地という名が付いている以上、それらしい乗り物などが少なくてもあると思う。  そして、隅田川の流れている方面をどんどん歩いていくのだが、一向に遊園地らしき気配はない。  すると矢印で「遊園地まで150m」と書かれた案内板があった。  これが、なければ絶対にわからない。  それでも不安げに歩くと突然、かなりの大きさの観覧車の姿が飛び込んで来た。  やはりあったのだ!  遊園地が。

遊園地まで150m

 ちょうど当日、都電荒川線の一日乗り放題切符を買っていたため、それで入園することができた。  鉄道とタイアップしていることがわかる。  中に入ると、それは懐かしの昭和時代の遊園地を思わせる光景だった。  しかし、決して迫力がないわけではない。  ジェットコースターは確かにないが、絶叫マシンが得意でない宮島からすれば、問題のないことである。  遊園地を一周するような形の電車の路線に囲まれ、コーヒーカップや子供一人のりの乗り物(新幹線や動物の形をデフォルメしたもの)など、遊園地の王道ともいえるマシンが並んでいる。  平日ではあったが、近所(?)の親子連れも遊びに来ていたし 、学生と思えるカップルも来ていた。  そして大人にはビールを飲める売店もあって嬉しい。

荒川遊園観覧車

 ディズニーリゾートをはじめとした大型のテーマパークに足を運ぼうとする人が多い昨今、こうした地域密着型の遊園地で得られる楽しさも、あらためて注目されて良いのではないだろうか。  観覧車に乗ってみたいという思いは残しながら、再び住宅街のホームから電車に乗り、終点の三ノ輪橋に向かう。  終点のホームに着くと、そこは地方の温泉街を彷彿さる趣のある空間だ。  そして何故か、1960年代によく見られた、大塚食品、大塚製薬などのホーロー製広告が掲げている。  これも鉄道会社側による、雰囲気づくりの粋な計らいなのだろうか。  今、首都圏は変化している。  2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けての関連建設も増えているという。  国立競技場も新設されるのは周知の通りだ。  街々が変わり行くこの時代、逆に一昔前の雰囲気を経験させてくれるオアシスのような場所も、たまには必要なはず。  都電荒川線は、それを代表するものの一つと言えるだろう。

ホーロー看板 宮島永太良

(文・宮島永太良 写真・関幸貴)

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