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好評連載!
 不思議な家に魅入られて 小田原後編

小田原前編 ► ►

「テラハウス」

 
テラハウス

 その後間もなく、小田原市街地の住居地図を手にする機会があった。  各世帯の枠に所有者の名前が入ったあの地図だ。  私は真っ先にテラハウスの箇所を確認してみた。  空欄だった!「病院の所有ではなかったのか?  あるいは名乗り出られない所有者でもいるのだろうか?」謎はまた振り出しに戻った。  そして、この頃から「壊せない理由があるのではないか」と気になり出した。

小田原城址公園

 その後、私は同じ小田原市内で引っ越しをするのだが、あろうことかテラハウスのかなり至近距離、いわばご近所さんになってしまった。  庭の木も、「ようこそ」と、ばかりに毎日のように窓から顔を見せてくれる。  私の自宅からテラハウスは見えないが、木が見えることによって自動的にテラハウスを想像する仕組みが出来上がっていた。

小田原城址公園八幡山古郭

 子どもの頃怖いと思っていたテラハウスだが、こう何十年も付き合っていると、正体知らずながらも親しみが湧いて来る。  いっそ、「小田原の名所にしてしまえばいいのに」と、考えたことも何回もある。  線路を越えて真正面には小田原城もあるのだから。  夢にもよく出てきた。  この頃になると、夢の中でテラハウスが整備され、庭も公園のようになり、観光客が入って来られる施設になっていたりしていた(目的は肝試し?)。  そして、夢から覚めると「まさか」と思うのだった。  何年か後、本当に公園になってしま うとは想像すらしなかった。

八幡山古郭・総構 説明板

 今から10年前の2005年、テラハウスにとってピンチの事態が訪れる。  テラハウス敷地も含めた近隣一体を再開発し、マンションを建てる計画が発表された。  私は心の中で大反対だった。  「この隠れた名所をなぜ壊してしまうのか!?」と。  しかし、計画は実行に移され、テラハウスの周りでも取り壊し作業が、スタートし始めていた。

階段

 しかしすぐ前は小田原城。  ある程度進んだ頃、市民から「お城より背の高い建造物を作り、景観を損ねるのはいかがなものか」と反対され、結果的に中断となってしまった。  テラハウスも助かったわけだが、これを偶然と言えるだろうか。  この頃から何か「壊してはいけない」あるいは「壊せない」理由が、人為的の有無にかかわらずあるのではないかと感じるようになった。

小田原城址

 テラハウスの正面が小田原城ということは何度か述べた。  実は現在の小田原城は、天守閣以下の各建造物とも昭和34年以降に再建されたものである。  (二の丸の平櫓という建物だけが当時の遺構だと言われる) テラハウスは、どう考えても昭和34年以降とは思えない。  新しくて明治時代、古ければ江戸時代の終わり頃にはあったと思われる。

小田原城

 そうだとすれば、もともとの小田原城が解体されたのは明治3年から5年頃なので、その時もこのテラハウスは解体される小田原城をしっかりと見届けていた可能性がある。  そして再建された時も見据え、再建から56年になる現在もまだ見据えている。  このテラハウスには、小田原城をたえず至近距離から見守っている役割があったのではないか。  それは決して人為的なことではないかもしれないが。  一説にこのテラハウスは「心霊スポット」扱いされていたりもするようだが、ここで心霊現象が起きたとは聞いたことがないし、勝手に肝試しで入り込んだ人間以外から、恐怖体験 を聞いたこともない。  穏やかに、小田原の地に佇んで久しいのだ。

大きな木

 マンション騒動の時を境に、テラハウスの周りは整備され、荒れていた庭も綺麗になった。  敷地のすぐ下の崖の中腹には芝生が植えられ、小さな公園と変わった。  しかし現在、この整備からもはや10年経っている。  公園は手入れが続けられているので問題ないが、テラハウスの敷地内は草木が生え放題で林のようになってしまっている。  テラハウスも茂みに隠れて見えないが、外から察するに、もはや半壊しているようだ。  しかし人為的に取り壊されたわけではないので、いまだに存在しているとも言えるのだ。  こんなテラハウスも、老い果て、壊れかけた体で、これからも小田原城を見守り続けるのだろうか。  末永く見届けたい。

相模湾
 

補足とお願い!
 2005年にマンション建設が一回決定された日、テラハウス界隈の家では原因不明の断水が起きたとの噂も聞く。  それも何かのメッセージだったのだろうか。  読者の方で、この小田原の物件についてご存知のことがあれば、どんな情報でもお待ちしています。  どうぞよろしくお願いいたします。

(文・写真 / 宮島永太良)

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