Road : つれtakeロード
■ 好評連載!
今回の小さな旅は宮島永太良自身による回想特別編♪
第4回 岳南鉄道
九月上旬、暑さもまだ残る中、静岡県は富士市内にある吉原駅から岳南鉄道の旅は始まる。
「昔、富士駅まで各駅停車で何回か行ったことがありますが、手前のこの駅で、どこかレトロ感あふれる、また遊園地の乗り物を連想させる電車を見つけ、乗る機会もないままずっと気になっていました」
この富士山麓も愛着の地という宮島は回想していた。赤い車両に乗り込むと、意外に普通の列車っぽい。 しかしローカル線特有の一種の「温かみ」が感じられた。 ちょうど「全線1日フリー乗車券」を手に入れることができたので、まずは終点の岳南江尾(えのお)駅まで一直線に行ってみることにする。 この日は晴れていたが、ちょうど富士山の周辺は霞がかっていて、富士山を拝むことはできなかった。 しかし富士山の山麓ということもあり、フリー乗車券の販売にも見られるように、この岳南鉄道も観光線アピールをしているのだろう。 ほとんどの駅に、沿線の名所案内を載せたフリーペーパーが置かれていた。
それにしてもさすが「紙の都」と言われる富士市。製紙工場が多い。
またそれと連携してか、この沿線には多くの種類の工場が存在する。
先日乗った鶴見線を彷彿させる光景だ。
吉原から一つ目の駅「ジャトコ前」は、車の自動変速機などを製造する会社・ジャトコの本社に訪れるためにあるかのような駅で、早速工場の風景が押し迫る。
しかし次の駅「吉原本町」に行くと、駅前商店街の光景があらわれ、JR富士駅の周辺を連想させるような町づくりだ。
そして車窓からは「つけナポリタン」と書いた謎ののぼりが見える。
これはこの周辺のご当地グルメらしく、スパゲティナポリタンをつけ麺のようにアレンジしたもので、パスタ麺をトマトソースベースのWスープにつけて食べるものだという。
残念ながら今回は食べる機会がなかったが、地元ではB-1グランプリの入賞を目指すという力の入れようだ。
「途中、岳南原田駅と比奈駅の間で、もろに工場敷地を突っ切る場所があり、何とも言えないスリルを感じました」あの鶴見線でさえなかった状況に、工場好きの宮島には感動的だったようだ。
そして終点・岳南江尾駅に着く。
すると一緒に乗っていた地元のおばさんが、「どこからお見え?このあたりは何もないよ。 そうね、比奈の方へ行くとおもしろいかもね?」と親切に説明してくれる。
先ほど工場を突っ切ったあたりだ。
また駅員さんも「これを見て観光するといいですよ」と、既にもらった案内フリーペーパーをくれたが二部あって損をするものではないので頂くことにした。
早速、地元の人たちが勧めてくれた観光コースを行くため、復路の電車に乗る。
そして比奈駅を降りて10分ほど歩くと「湧水公園(ゆうすいこうえん)」があった。
澄んだ水の池が美しい公園だが、そこにはものすごい数の鯉が! これだけ水が澄んでいると、鯉も生活しやすいのだろうか。
「東京でもよくペットボトル入りの『富士の天然水』みたいな名前のものを飲みますが、起源がこのあたりだと言えば納得いきます」水が好きな飲み物の代表と言う宮島には満足な環境のようだ。 しばらく行くと山小屋風の喫茶店があり、ここで昼食を食べることにする。 やはり「つけナポリタン」の名が頭から離れないが、この店にはないので普通のナポリタンを食べる。 帰り際、店のマスターが、美しい富士山の写真の出ている、この地の名所ポストカードをサービスでくれた。
そのマスターによると、近くの「竹採公園」が良いという。 みんながみんな観光の案内をしてくれるのだ。 本当にありがたい。 マスター推薦の「竹採公園」に着くと、なんとそこはあの「なよたけのかぐや姫」の出身地だという!
「おとぎ話の人物に出身地なんかあるの?」とは思うものの、「金太郎の発祥の地が神奈川の足柄山」「桃太郎の発祥の地が岡山」などを考えれば、珍しくないことである。 小高い丘を登っていくと本当に、かぐや姫が眠っていたと言われる竹の一群があった。
「そういえば昔、かぐや姫について書いた本を思い出しました」宮島が読んだ本には、かぐや姫が月に発つ際、育ててくれたお爺さん、お婆さんに「不死の薬(死なない薬)」を渡した伝説が載っていたという。
しかし二人は、娘がいなくなった後、永遠に生きていても仕方ない。
そう思ってその後、二人で月に一番近い山まで行き 、山頂に不死の薬を埋め、月の神様に返した。
以後その山は「不死の山=富士の山」と呼ばれるようになったと書いてあったのだ。
まさにこの近くでの話だったのか!
感動の話を思いおこしながら、そろそろ帰路に向かうが、 途中のさりげない所にも、また湧き水を発見する。
そして帰りの電車に乗るのは岳南原田駅から、あらためてホーム屋根のデザインに目を惹かれるこんな時代を刻んだホームは、都心ではなかなか見られないだろう。
そして吉原駅に戻ると「またおいで下さい」のイラスト入り看板があった。 このイラストに反して、富士山は最後まで顔を出してくれなかったが、すぐそこで「いつでもいるんだよ」と言っているようで、「また来てみたい」と切に思う岳南鉄道の旅は、次回に楽しみを託すのだった。
取材 / 撮影 宮島永太良