Story : 詩と作品
連載第6回 言葉を繋ぐ…
いいものあげる
「いいものあげる」
彼は子供の頃、この言葉を聞くと喜んだ。
めったに物をくれない近所のおじさんがそう言う時は、
彼が誉められた時だったから。
私は古びたショルダーバッグ。
そういう時、おじさんは私の中から、
いろんな物を出してくれた。
キャンディー、ガム、笛、ボール、人形、ミニカー……
時が経ち、住む場所も変わり、
いつの間にかおじさんにも会わなくなった。
最後におじさんが彼にあげたのは、この私自身だった。
いつからか、私の中から出してもらったものにも、
彼は興味を示さなくなったが、
もらった喜びの記憶だけは残っていた。
大人になった今となれば、
中にはもらっても嬉しくないようなものばかり。
でも彼は満足して使っていた。
今日、ある一人の子が、良いことをした。
「いいものあげる」
思わずその言葉を口にした彼。
喜びの瞬間がよみがえってきた。
あげられるようなものは、何もないのだけれど。
「いいものあげる」
宮島永太良