TOPEssay : エッセイ

☆ 名言迷路 卍 迷言名路 ☆      宮島永太良

このページでは、私が今までに聞いて興味をもったワンフレーズを紹介し、
それを考察しようというものです。
史上言い継がれてきた諺、偉人の言葉から、
著者の周り近所の人が発した言葉まで様々ですが、どれもこの世の中に暮らす人にとって、
何らかのヒントになるのではないかというものを挙げています。

〇 みんながオーナー

団地

 これは私が知っている、ある女性社長の言葉である。  「みんながオーナー」と、聞くと「え、会社のオーナーって一人なんじゃないの?」と疑問を持たれるかもしれない。  実際複数のオーナーがいる会社もあるし、某政党もその昔は二人代表制を取っていた。  しかし、ここでの「みんながオーナー」とは、みんながオーナーの気持ちになるべきだ、ということである。  その社長は主に客商売をされているが、お客さん相手の事業となると、社員・店員の心の持ち方が如実にあらわれてくる気がする。

 かつてこんな経験をしたことがある。  ある本屋(とはいっても本だけでなく雑貨なども売っていたが)に「立ち読み禁止」の貼り紙がしてあった。  その本屋の書棚に、どこかで見て買おうと思っていた雑誌らしきもの があったのだが、本当にその雑誌かどうか今ひとつ判断がつかなかった。  せめて表紙から一枚、二枚とめくって確認すれば、欲しいと思っていた雑誌かどうかがすぐわかる。  そうしてみようと思ったのだが、横に「ちょっとでもめくったら注意してやるぞ! うちは立ち読み禁止だ」とばかりに睨み付けている若い店員がいたので、面倒くさく思いその場を去ってしまった。  考えてもみれば、表紙を一枚、二枚とめくる行為は「立ち読み」とはいえない。  単なる確認行為であると思う。  本というのは全く中身を見ないで買うというのは、かなり難しい。  最近は、あえてじっくり立ち読みして、気に入ったら買って下さい、という寛大な書店も増えてきている。

 多くの本屋はまだ、立ち読みされると他客の邪魔になり、しかも買っていってくれないからという理由で遠慮してもらう所が多いのは理解できる。  しかし、それが高じて、ただの確認行為さえ許さず、本が一冊売れるチャンスを逃すというその店員は愚かだと思ってしまった。  つまり彼は「オーナー」の気持ちではないのである。  オーナーの気持ちになれば、本が一冊でも売れた方が良い。  しかし彼は、自分のやる仕事(立ち読みの見張り)さえして給料をもらっていけばそれで良いのだ。  彼にとって、自分の働くその本屋が儲かろうがどうだろうが知ったことではないのだ。  (よくよく考えれば、店が儲からなければ給料も下がるわけだが)一つの会社なり店が、こうした社員・店員ばかりだとどいなるだろうか。

遊覧船

 かつて別な会社社長は「いずれ自分の会社をやめて独立を目指す社員が大歓迎」と言っていた。  自分の会社にいつまでも尽くしてほしいという経営者も多い中、珍しい意見と思うかもしれないが、自分で何か事業を起こそうと考えている人は、今属している会社の仕事も、自分自身の仕事のように本気でやるので期待できるとうのである。  「いずれ独立を目指す」ということは「いずれ責任を負わなければいけない立場を目指す」ことでもある。  その志を持った人は、今の勤め先でも、その立場である人から多くを学ぼうとする。  つまりオーナーの立場が伝授されるのである。

 最近は、出世や独立など目指さず、安定した会社に勤めて、家族と幸せに過ごせればそれでいいと考える人も多いと聞く。  しかし出世や独立を目指さずとも、つねに重要なのは、自分が職場全体のためにいかに役立っているか、という視点だと思う。  さらには、仕事というのは、社会での何らかの役割を担っているものである。  その意識を持つかどういかが重要であり、「オーナー」という立場は、つねにその意義と隣り合わせにあるといってよいだろう。

宮島永太良

(撮影:関 幸貴) 
Copyright © 2010- Eitaroh Miyajima. All Rights Reserved.