TOPTalk : 対談

スペインから日本に活動拠点を移した画家 / 加藤力之輔さんが登場。

 ふたりは親しく、会った瞬間から加藤力之輔さんがお寺を個展会場に選んだ『異文化空間展』から始まり、話題は海を越えスペインにまで及んだ♪


加藤力之輔さんと宮島永太良

◎加藤力之輔(かとうりきのすけ)さんプロフィール

加藤力之輔さんspace
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画家 横浜市出身、鎌倉在住。
1944年6月13日生まれ、双子座、A型、5人兄弟の3番目。

1972年からスペイン国立プラド美術館で4年間〈ティツアーノ〉を模写研究。
マドリードの美術研究所で人体デッサンの修練でモノの見方を学び続ける。
日本、スペインで多数個展開催。

2004年より覚園寺(鎌倉)・新善光寺(京都)・梅上山光明寺(東京)で
異文化空間展開催。

 

加藤力之輔さんと対談 後編  スペインの食とこれからの創作について!

宮島永太良

宮島永太良(以下・M):
そう言えば、あちらの方は、外で食事をするのが好きですね。  結構寒くても平気で戸外で楽しそうに食べ飲み、寒さに強そうです。
加藤力之輔さん(以下・K):
寒さに強いのは、多分体の脂肪の関係なのでしょう。  ただ、スペイン料理ではバターはあまり摂らず、オリーブオイルが主。  現地のレストランでパンに添えられているのはオリーブオイルです。

M :最近、日本でもその傾向があります。ところで、パエリアが代表的ですが、スペインではどんなモノを食べますか?
K :スペイン人はお肉も食べます。  でも、海の幸も豊富。魚市場は築地に次いで、マドリッドにあるのが世界で2番目の大きさと言われますから、ヨーロッパでは有数な魚の消費国だと思います。  その上、私も肌で感じましたが、彼らの家計はエンゲル係数がかなり高く、とても食いしん坊で、外食も大好き。  レストランへ家族連れで出掛けることも多く、お父さんが何を注文するのか、子どもたちは期待の眼差し。  これは、よくある微笑ましい光景です(笑)。

M :物価の関係は? レストランは高くありませんか?
K :高い店は高い、安い店は安い。  でもスペイン人は遊び方が上手だから、お金のある人はそれなり、ない人もお店を選んで楽しんでいます。  また、外食好きのスペイン人気質は、マドリッドのレストランの多さに表れ、同じ面積の中で調べた場合、ヨーロッパで1?2を争うそうですよ。

M :スペインでは、ひとりで食事に行くことはないのですか?
K :ほとんどありません。  家族、恋人、友人、必ずと言ってよい程、誰かと一緒です。  その方がおいしいですから…

加藤力之輔さんと宮島永太良

M :家でも作って食べますか?
K :はい。  あと、子どものいる家庭は分かりませんが、普通の家の旦那さんの朝食は、行きつけのバールへ行き牛乳入りのコーヒーとパンぐらいで出勤をするケースが多く、今は変化しましたが、20年ぐらい前は、昼食が最も豪華でした。  旦那さんは勤め先から一度自宅に戻り、食事を摂り、シェスタ(昼寝)をしてから出勤。  そんな感じですから、夕食は軽いスープぐらいでした。

M :お酒を飲む人は多いですか?  昔から飲む場合、食事は軽めにと言います。  その方が健康にも良いらしいですね。
K :多いです。  昼食が豪華だった頃、現在では考えられませんが、必ずワインがありました。  でも、最近はスペインもアメリカナイズされ、マドリッド等の都市部では、その食習慣は減り定食屋が増え、1時間程で昼食を済ませる人が多くなった様です。  何か、寂しい感じがします。

M :今の話を聞いて祖父を思い出しました。
K :どんな方だったのですか?

M :祖父は小田原に住み、箱根で旅館経営等、色々していました。  その関係で仕事先で泊まることが多く、自宅にはいつも昼頃帰って来ました。  それで、昼ご飯をたくさん食べ、ウイスキーのお湯割を飲み、庭仕事、昼寝をして、また、出掛けて行く。  そんな生活サイクルでした。  スペインの昼食エピソードが、懐かしい祖父を思い出させてくれました。
K :日本人とは思えません!

M :でも、祖父は海外経験はなかったと思います。
K :お酒も強そうですね。

加藤力之輔さん

M :はい、かなり強く煙草もかなり吸っていた様ですが、大病をしてから煙草は止めたそうです。
K :あと、スペインでの食事の時間帯ですが、朝は日本と同じ、昼は2時頃、夜は9時頃でした。  また、夏は9時半頃まで明るく、夜、レストランがオープンするのが8時半頃ですね。  それにしてもオジイさんはラテン的。  お客さんに海外の方が多かったのではないですか?

M :いいえ、外国人の宿泊客が来たとは聞きません。
K :そうですか。  でも、箱根にはドイツ人観光客が多かったと言われています。  だから、もしかして…

M :そうですね。  祖父の事を色々と想像するのは楽しいですが、本当の答は分かりません。  さて、話は変わります。  加藤先生は、スペインから戻られて鎌倉に本拠を据えました。何故ですか?
K :日本に戻って来ると横浜の弟の家に滞在していました。  でも描くスペースがなく、スペインからの帰国に際し、私が鎌倉二中と県立鎌倉高校を卒業し、地理にも明るい鎌倉で家を探してもらったのです。  それで、稲村ガ崎に大きな創作もできる一軒家を借りることができました。

M :では、現在の制作ベースは?
K :1年間で考えると、1〜2ヶ月がスペイン、残りが日本です。  スペインで40年間、デッサンを勉強して来ました。  そのデッサン全てを鎌倉に収蔵。  それを礎に『群像』を描こうと考えているのです。  もう、自由に描いても良い頃です。

M :デッサンは大事ですね。
K :デッサンはモノの見方です。  若い頃から40代に掛けては目が良く、細かく描けました。  しかし、年齢と共に自然に変化します。  これは、これで良いと思います。  私はパターンで描くのではなく、素描から出発しています。  この部分、風景が美しいと思うと、そこから描き始めます。  ですから、人物、風景や花も描きます。

海岸へ

M :お話をさせていただいている個展会場に展示されてある作品に、光の中にある様な新しさを感じます。
K :やっと、ここまで来たのです。  木炭の上にパステルで塗ると、下に木炭の黒が残ります。  その上に黄色く塗ることで影の部分が、独特の黒になります。  発想は『グリサイユ』と言う技法からです。  それを私流にアレンジして描いてみました。

M :では、オリジナル技法ですか?
K :いいえ、誰かやってますよ(笑)。  絵は、どんな描き方をしても良いのです。  ただ、作品を見て、それが誰の絵か分かれば、なお良いですね。  そう考えると、宮島さん作の絵は皆が分かります。

M :ちゃんとした絵の描き方を習っていないので、独自に色々やりました。  だから、どれが自分のオリジナルの技法は分からないですね。
K :約10年前、横浜美術館で宮島さんと知り合いましたが、それ以降、作品を見れば、私には宮島さんと分かります。  それが大切。  作家であることの重要な要素です。  宮島さんには、それがある。

M :有り難い言葉に恐縮です(笑)。  それでは最後の質問です。  息子の加藤大輔さんも画家として活躍していると聞きました。
K :大輔は生まれも育ちもスペイン。  結構、良い絵を描いている様です。  大文字で“DAI.K.S”と、検索するとホームページに繋がると思います。  でも、若い人たちは良いですね。

M :最近の若い方は、マンガの影響をかなり受けている気がします。
K :確かに情報の影響を感じます。  だから、絵が乱暴にならない様に心掛けて欲しいですね。  私の場合、若い頃のスペインは情報が入らず、長いスパンで物事を考えられました。  もし、渡った先がニューヨークやパリだったら、こうはいかなかったでしょう。

M :情報との付き合い、選別が難しいですね。
K :私は自分の世界を構築するために『常に画家は孤独でなければならない』と、思っていました。  また、日本の画壇は天才が揃った印象派の影響が強く、そこから始めても難しいと思ったので、その以前を知り、絵画の源流を知るためにスペインに渡ったわけです。  資質もあるでしょうが、絵は始めから終わりまで、何処まで行っても個人的な行為ですからね。

稲村ケ崎からの夕日と富士

M :温故知新ですね。  それは一人の作家から学ぶのも無理。
K :現在、スペインに絵を学びに来る方はリアリズムの勉強をしに来る人が多いです。  それはそれで良いですが、そこにしかない光とか色を感じて欲しいです。

M :本当ですね。  そこでしか見られない光景を感じることは、画家として大切ですね。  話は尽きませんが、今日は、貴重はお話をありがとうございました。

(文・写真 関 幸貴)

 
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