TOPStory : 詩と作品

Story : 詩と作品

連載57回 お椀お椀…

二つのお椀

 
二つのお椀space

その昔、ある家の軒下に、古いお椀が二つ放置されていた。
一つは椀太郎という名前、もう一つは水丸という名前。
ある日、小雨が降った。二つはわずかながらも、久々に入る水分に喜んだ。
そしてどちらが先に水でいっぱいになるか競争をはじめた。

しかし椀太郎のが少し屋根に隠れたところにある分、不利だった。
水丸は得意になり、次々とくる雨つぶに喜んだ。
椀太郎には雨粒程度ではなかなか入ってくれない。

そのうち雨はやんでしまったが、なぜか水丸のところにまた雨つぶが一つ。
「え、一粒だけ?」と思っていたら、それは小さな砂利だった。
水丸はおでこに怪我をしてしまった。「痛い痛い」と泣く水丸。
「痛い痛い」と騒ぎすぎて、ついに倒れて水をこぼしてしまった。
椀太郎の足元に流れる水。椀太郎は初めて足元の気持ちをさがわかった。

「そうだ水丸、水を浴びれば少し気持ちがよくなるよ」
椀太郎は自ら倒れて水を溢れさせた。
「ほんとだ。ちょっと痛いのが和らいだ」

気がつけば椀太郎も水丸も空っぽ。
その後二つは競争せず、水が必要な人のために、
協力して水をためることにしたとさ。



space二つのお椀

「二つのお椀」
 

宮島永太良

space
Copyright © 2010- Eitaroh Miyajima. All Rights Reserved.