TOPTalk : 対談

「見ること 作ること」
以前とは異なる視界にいるシモン楽騎さんが語った! 後編

 
 
シモン楽騎さん
 

◎シモン楽騎(がっき)=AQRAさん プロフィール 

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村岡ケンイチさんspace
アーティスト。
1960年 熊本県熊本市生まれ、乙女座、B型。
1983年 和光大学人文学部芸術学科卒業。
1988年 銀座ギャラリー・オカベで個展。
1998年 新潟県(株)福田組「感動創造美術展」で優秀賞を受賞。
2018年 横浜市 夢工房だいあん で個展。 
*「花まつり」などグループ展多数参加。

現在、横浜在住。
ミーツアートクラブメンバー。
ArtQメンバー。
2017年より障害者手帳所持。
*令和への改元を機にAQRAから‘シモン楽騎(がっき)’に改名。    

☆宮島永太良がシモン楽騎さんに問うた!

宮島永太良(以後M):シモンさんの最近作は金色を使ったものが多いように感じます。以前から金色を使っていましたか?
シモン楽騎(以後G):いいえ、日本美術にあまり惹かれなかったし、琳派や俵屋宗達にも興味がなかったので、これまで金と関わったことはありませんでした。

シモン楽騎さんの作品

M:それが何故?
G:2019年1月中旬にアートラボ・トーキョーで開催された「アートバースディ」に「抽象表現主義」みたいな絵を出したのです。それで、その作品を会場で見ながら、「この作品は昔やったことじゃないか。あれはあれで続けてやっても良いのだけれど、正直見飽きている」と自問自答。ちょっと違うなと感じた時、ふと金を思いつきました。だから、自分が選んだわけではなく、金がやって来た感じかな。

M:突然ですか?
G:そう、金を意識して作品に取り入れようとしたのではありません。金が「私を使ってよ!」って感じで突然やって来たのです。

M:では、金の作品の制作工程を教えてください。
G:私は目が不自由でできないので、アーティスト仲間の原雅彦さんの手を借り、まず購入したF3号、6号、10号のボードに中国産イミテーションの金箔を貼ってもらいます。そして、描き始めます。余談ですが、原さんはその作業中、部屋も含めて金箔まみれになっているそうですよ(笑)。

シモン楽騎さんの作品

M:それから、シモンさんはどのように描き進めるのですか?
G:文字や形は判りませんが、陰影の凹凸は判るし、光の反射やコントラストで形を確認しているつもりですが、正直に言うと何を描いているのか判りません。

M:では、制作途中の確認はどのようにしているのですか?
G:金の細かいマチエールが見えません。そして、部分的には虫眼鏡で確認しますが、細い線は自分では見えないので重ねて描くこともあり、「なんとなくできたな〜」と言う感じで、絵の全体の様子が判らないまま描いているのです。

M:出来上がった作品の全体が見えないのですか!?
G:はい、出来上がりを虫眼鏡で確認します。ただ、自分の目で一ヶ所は見えるけれど、全体は見えないので、作品の細部を頭の中でつなぎながら描いています。彫刻家の棟方志功も緑内障だったので部分部分しか見えていないはず。なので、彼も頭の中で部分をつなぎながら彫っていたと思います。

シモン楽騎さんと宮島

M:突然ですが、ベートーベンを思い出しました!
G:確かに難聴のベートベンも同じ感覚だったと思います。彼は聴こえないから頭の中で想像しながら音を鳴らしていたと思います。「こんな音じゃない、この音のはずだ」とね。イメージしながらの作曲、耳が聴こえていたら間違いなく違う音楽作品になっていたはず。見えない、聴こえないからこそ、自然発生的にちょっと変わった作品になるのだと思います。ところで、宮ちゃんはベートーベンを聴いていました?

M:聴いていましたが、話題にも偶然性ってありますね。実は今夏、アートラボ・トーキョーで開催される「hanabi展」に、私は「ベートーベンの顔のコラージュ」を出すことにしているので、その思いがシモンさんへの質問に重なってしまいました。
G:それ必然かもしれない。で、ベートーベンは頭の中で作曲しているから、実際の音で確認できなかったはず。それは大変だと思う。私は絵だから、赤と茶の色の区別ができなかった時はショックだった。「おかしいな、赤を塗っているはずなのに!」と思いながらも赤のインパクトが来ない。それで最後まで行ってしまい、一晩寝てから「違う絵具」を使ったのではないかと気付き、調べたら、今までに一度も使ったことのない茶色のチューブがすっかりなくなっていて、「ガビョ〜ン」でした。本当に予想ができないものが出来上がるのです。

シモン楽騎さん

M:ところで、金色に描くことはやりやすいですか?
G:普通のキャンバスは白に色だから判りやすいけれど、金は黄土色で判りにくく、やりやすいということはなく、逆に見にくいです。ただし、それによって何が出来上がっているのか判らないことに興味があります。また、汚れ等、絵具の諸問題に対応するために、現在は、これまでほとんど使っていなかったアクリル絵具で描いています。

M:そう言えば、金の上に描いてある絵も以前のシモンさんの作風とは明らかに違います。
G:自分でも驚いていますが、たぶんキャンバスにこの感じの絵を描いたことはなく、金を使ったからこの感じになったのだと思います。職人もそうだけど、材料で作るものは変わります。

M:金色作品、これまでの制作数は?
G:これまでに行方不明の1作品を含めて20作品描きました。当面は50作品の制作を目指していますが、気分が乗れば100作品になるかもしれません。とにかく私にとって、ピカソが晩年に発表した300枚以上の銅版画シリーズ「画家とモデル」のような存在になってくれたら嬉しいです。

M:今後、金色作品の制作予定は?
G:いつかは50号ぐらいの大きな絵も描きたいですが、順序よく進めたいので当面は小さな作品を描いて行くつもりです。

  
宮島永太良

M:最終的な金色作品の展示はどのようにしたいですか?
G:制作している作品は、F3号とか6号、10号と小さい。だから、いつかまとめて展示したいです。つまり、大きい絵を出すんじゃなく、小さな絵の集合体にしてバーンと展示したいね。それが、どんな感じの展示になるのか、私には全く見えないけれど、誰もやったことのないことをしてみたいです。

M:小さな作品がひとつの素材になって、大きな作品になるワケですね。それはユニークな展示方法ですね。今から楽しみしています!
G:ありがとうございます。しかし、絵を描くにあたって、かつて目が普通に見えた時の私の力が100%だとすると、現在の私には30%しかなく、残り70%を、脳をはじめ他のあらゆる器官で補っていると思います。そんな状況はこれまでになく、未来がどうなるのか何も判りません。ただ言えることは、何があっても描き続けたいと思っている私がいるということ、精進あるのみです。これからもよろしくお願いします。

M:今日はシモン楽騎さんの今後の核心に迫るお話を聴くことができ何よりでした。今後の展開を楽しみにしています。どうもありがとうございました!

  
シモン楽騎さんと宮島
 

おわり

 
(構成/関 幸貴 写真/世紀工房)
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