TOPTalk : 対談

「見ること 作ること」
以前とは異なる視界にいるシモン楽騎さんが語った!   前編

 
 
シモン楽騎さん
 

◎シモン楽騎(がっき)=AQRAさん プロフィール 

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村岡ケンイチさんspace
アーティスト。
1960年 熊本県熊本市生まれ、乙女座、B型。
1983年 和光大学人文学部芸術学科卒業。
1988年 銀座ギャラリー・オカベで個展。
1998年 新潟県(株)福田組「感動創造美術展」で優秀賞を受賞。
2018年 横浜市 夢工房だいあん で個展。 
*「花まつり」などグループ展多数参加。

現在、横浜在住。
ミーツアートクラブメンバー。
ArtQメンバー。
2017年より障害者手帳所持。
*令和への改元を機にAQRAから‘シモン楽騎(がっき)’に改名。    
 

 40歳ぐらいから悪かった目が、2012年以降、緑内障が進み何度か手術を受けた結果、私はそれまでとは全く違う視界の住民になってしまいました。それ以前から「何かを生み出すことこそが人生の価値」だと考え歩んできた私は、目を患っても精神的にはタフな方でした。しかし、2016年4回目の手術を終えても目は一向に回復せず、自分に表現したいイメージがあり、目前にどんなに良い筆や絵の具があっても、目が壊れてしまって描けないのです。つまり、絵は目で見て手でイメージを定着させるのだけれど、もう私にはそれをできないことを実感、今までにない強烈な精神的ダメージを受け絶望的になってしまいました。

シモン楽騎さんの作品

ところが、そんな私の気持ちを察しているのか、いないのか分かりませんが、横浜のアーティスト/ロコ・サトシさんに呼び出され、2016年11月に岩崎ミュージアム(ゲーテ座)に行きました。 すると、いつも突拍子もないことを考えているロコさんに「アキラ、色んな人がいるから、目が見えなくても心で描けよ」と、まず言われ、続いて私を中心にしたプロジェクトのとんでもない企画書を見せられました。「何を考えているんだ、ロコさんは!」と一瞬驚きましたが、それまで私が失っていた前向きのパワーを送ってくれたのは事実でした。以後、ロコさんの企画に沿ってヘッドペインティングのパフォーマンスをゲーテ座で何度か行いました。とにかく、どうしようもなかった絶望の淵から私を救い復活させてくれたのがロコさん、今も心から感謝しています。 だからと言って現在の二人の関係が良いと思うと、そうでもない(笑)。それは、私がアーティストとしての目標、壁であるロコさんをなんとか攻めたい思っている気持ちがそうさせるのかもしれません。だからこそ、私のスタイルで追い続けたいのです。

シモン楽騎さん

 ロコさんを追うためには描かなくてはなりませんが、現在、左目は霞がかかった状態で何となく見えていますが、右目は朧、私はかつての視野とは全く違う世界に生きていて具象は無理。抽象しか描くことができません。具体的に言うと、最後にサインを書く時の水加減が分からず滲んで困ったり、絵の具の茶色と赤茶色等の区別が難しく、中間色もわからないのです。それで、先日も出来上がった作品をじっと見ていたら、私が思った色とは違っていたことが判明。同居している94歳の母に確認してもらった時は本当にガッカリしました。

シモン楽騎さんとお母さん

まぁ、そうは言っても異なる視界に来て間もないし、何に関しても暗中模索であるのは仕方ないことかもしれません。ただ、目が悪くなってから人間の能力って凄いなと実感することがあります。何かと言うと、目、視覚で情報収集していたことができなくなると、耳、聴覚や触覚等、他の感覚や別の能力が潜在的な力を動き始めるのです。先日も東京都写真美術館に大石芳野さんの展覧会を見に行ったのですが、以前とは違い作品そのものが醸し出すエネルギー(オーラ)を肌に感じながら拝見、どうしても長時間になりますが、それでも作品のイメージはつかめるので素敵な時空間を過ごしました。

絵具

 実生活に話を移しても、道路を横断する場合、普通の人は視覚で左右を確認して歩き出しますが、私の場合はそれができないので、より聴覚や触覚を働かせ周囲の気配や風を感じながら渡ります。加えて自分でも驚くのですが、記憶力はかなり良くなっています。例えば、目が良かった頃に人と会うのを約束した場合、忘れないようにメモをしますね。でも、今の私もメモができないわけではありませんが、それを使おうと思ったらスケッチブックぐらいの大きなメモ帳になってしまうので無理。それで、約束を記憶するしかないのです。記憶を頼りにし始めた頃、約束を数回忘れてしまったことはありましたが、今は何も問題がありません。また、置き忘れをすることはほとんどなくなりました。視力のある人は忘れても探せますが、私の場合は探せないので忘れられなくなってしまったと言えます。とにかく、これは失った視覚を本能的に他の感覚がカバーしようとしているのでしょうね。人って本当に奥深いですよ。

  
シモン楽騎さん

 もう以前の自分に戻れる可能性は少ないと思います。でも、今の新しい世界に慣れ、新たな作品制作にも挑めるようになってきました。まだ目的地は見えませんが、そこを目指してこれからもしっかり歩んで行きたいと思っています。

 

後編へ続く…

 
(構成/関 幸貴 写真/世紀工房)
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