アートが気になるインタビュアーが宮島永太良を探る!
「宮島永太良研究」第6回
Q=アートが気になるインタビュアー/A=宮島永太良
Q:前回は、価格を中心とした絵のシステムについてお話いただきましたが、そうしたことをもとにしたお金のまわり方についても、宮島さんは以前から気になることがあると言われていたので、今回はそのあたりをお聞きしたいと思います。
A:はい、やはりアートもある面では商売の部分を持っているので、お金のまわり方は大事です。画家が絵を描き、画商がそれに価格を付けて販売する。その際、画商が手数料を載せて販売するのはある意味当然のことではあります。簡単に言えば、不動産を買った時、仲介業者は手数料で売り上げを立てるのと似ています。そういう意味で、本来は画家が直接売る場合と、画商が入って売った場合とでは価格は異なることになります。しかし、画家は創作が本業なので、基本的に営業はできない。画商はそれに代わって営業して売ってくれるわけですから、その分手数料が入るということです。
Q:その辺は理にかなった方法ということですね。
A:はい、その意味では、かつてある画商が画家に対して「君はなぜ自分から絵を売ろうとしない」と叱っていましたが、聞いていて「それはあなたの仕事ではないか」と思ってしまった次第です。
Q:当事者どうしが仕事の分担を理解していないと、とんだ誤解を招くことがありますね。
A:ただ、中には理にかなっていないと思えるお金のまわり方があります。
Q:どういうものですか。
A:多くは、アーティストの「向上心」にかかわるものです。
Q:向上心ですか。
A:そうです。アーティストとは、人によって差もありますが、少なからず多くの人に自分の作品を見てほしいという気持ちを持っています。それは音楽であれ、演劇であれ、舞踏であれ、表現活動を行っている人たちの共通点と言えるでしょう。その気持ちを出発点として、よりよい場所で発表したい果てはマスコミで紹介されたい、コンクールで賞を取りたい、などという欲求に発展していくのです。
Q:そうした向上心が利用されるということでしょうか。
A:そうなんです。「アーティストのそうした気持ちから来る思いを逆手にとって、儲けようとしているのかな?」と思えるビジネスも、何度か見てきました。
Q:宮島さん自身も、思い当たることはありましたか。
A:これは初個展を開く前、1998年頃のことですが、あるイラスト系の雑誌のコンクールに応募したことがありました。テーマは忘れてしまいましたが、新宿の街の一角を象徴的に描いたイラストを出品しました。すると数日後電話があり「入選しましたので面接に来て下さい」と言われたのです。もちろんその電話を受けた時は大変嬉しい気持ちになりました。ただ入選で面接とは珍しいし、指定された面接会場が自宅の近くだったので不思議には思いましたが。早速指定された日に面接に出かけると「この入選を機に当社のアートスクールへ入学しませんか」と勧誘されたのです。
Q:もしかして、自社の学校へ入学させるのが目的で、応募者全員を入選なり受賞なりさせたのでしょうか。
A:間違いなくそうだと思います。面接会場が自宅近くだったのも、全国に何か所も面接会場を設けているということでしょう。すぐに、そんな入選では、嬉しくもなんともないと思ったものです。発表活動をしている人はみな多かれ少なかれ、「人に評価されたい」という思いがあります。そうした心理を利用して、自らを潤わせようとしている一例といえるでしょう。
Q:中には本当に評価されたと信じ、入学した人もいるのでしょうかね。
A:高い学費を払って入学した人もいるかもしれませんが、果たしてどんな教育をしているか、入学しなかった私には知る由もありません。また、こんなこともありました。1999年、初個展を行った時ですが、やはり多くの方に知って、見てほしいという思いから、案内用DMをフリーで置けるところにはできる限り置いてもらっていました。すると、そのDMを見たであろう某報道関係の会社から電話がありました。それは「初めて個展を開くということで、広告を出してみてはどうか。本来23万円する広告費を大負けに負けて18万円にするので、ぜひ検討いただけないか?」というものでした。もうこの時点で23万円というのはダミーとわかりました。もちろんこの話も断りましたが、あとで聞くと、初めて個展を開く作家にはみなその会社から同じような電話があったそうです。
Q:これもやはり作家の発表の欲求を利用し、お金にしようとしたものでしょうね。
A:ちなみに私の「宮島永太良」という名前は2003年から改名したものですが、改名後初めて開いた個展の時も、同じ電話がありました。新たな個展デビュー作家と思ったのでしょうが、その時はもはや笑いすら起きました。
Q:そういうことが続いて、広告や出版、コンクール等について不信感を抱くようにはなりませんでしたか。
A:少なくとも私が仕事をしていた出版社ではそのようなやり方はしていなかったので、業界全体に対する不信ということはありませんでした。またこうした「コンクール」「広告」「出版」などはあってはいけないものではないし、むしろ場合によっては力になってくれることもあります。要は費用対効果の問題でしょう。「こういうことを依頼したらこのくらいの料金を支払う」という、世の中的な相場もあるでしょうし、またアーティスト側も、これまでの経験から、基準を決めておくのも一つの対策かと思います。絵や作品の価格も、結局は同じことかもしれません。