アートが気になるインタビュアーが宮島永太良を探る!
「宮島永太良研究」第4回
Q=アートが気になるインタビュアー/A=宮島永太良
アートが気になるインタビュアー(以後Q):前回まで、宮島さんがアーティストとしてデビューした当時のお話を聞かせていただきました。
宮島永太良(以後A):はい、話は若干前後しましたが。
Q:それもあるので一回整理します。
まず宮島さんは大学時代、美術史や美術理論を学んでいた。
その流れで美術雑誌の取材記事などの仕事、また現代美術の画廊の仕事、美術展の仕事も手伝った。
そうしている中、同世代の新進気鋭の作家の作品に、親近感を感じる意味で影響を受け、また美術展で見た参加型の作品にも影響を受けながら自身の制作を続け、やがてグループ展への出品を経て初個展へ至った、ということでしょうか。
A:はい、簡潔に言えば大体そういう流れです。
Q:第一回でも語っていただいた初個展ですが、やはり現在に至る上での大きな要素が詰まっていたのでしょうか。
A:そうですね。
その後私が制作発表する上で必要な「価格」や「作風」の問題も直面しました。
これらについてはいずれまたお話ししたいと思います。
また、この頃は私も、私を支援してくれた方々も、美術の世界にまだ馴染んでいなかっただけに、思い違いも多かったと思います。
もちろん、支援いただいた方々の中には美術、特に現代美術に長く精通した方もいたしたので、そうした方々は別なのですが。
Q:いわゆる現代美術どころか、美術そのものにも不慣れな方が、支援者の中にかなりいらしたのですね。
A:そうです。
特に私の家族の知り合い等は、そうした世界は無縁で、ほとんど私の作品から美術の世界を知ったという方もいました。
その中の一人からかつて「私は君のおかげで現代美術はもうわかるようになった」と言ってもらった時は、大変嬉しかったです。
Q:現代の美術の案内役になれたということは、作家冥利につきるということでしょうね。
A:また初個展の時には、変わった意見のお客さんが大変多かったです。
Q:どういう意見ですか?
A:以前もお話したように、企画展形式、つまり売上の歩合を画廊に収める契約を知って「そんなことして画廊賃料をケチらず、ちゃんと貸し料を払えばいいじゃないか」と、私からすればユニークな意見を言った人もいました。
世界的にみれば、企画展形式がプロのやり方であるにもかかわらずです。
Q:そのへんは部外者にはなかなか理解できないだけに、ちぐはぐな意見が出てしまうのでしょうね。
A:また、家の屋根だけをクローズアップして描いた作品を出したのですが、それを購買予約してくれた人から、「屋根の上に猫を描き足してほしい」と言われました。
私はそれもサービスだと思い、描き足してもいいかなと思っていたのですが、仲介した立場にいた人が「作品をむやみに変えるものではない」ということを言って、描き足しは中止になりました。
買ってくれた人からも「失礼なことを言って申し訳ない」と謝罪を受けましたが、私としてはそんなに謝られては逆に申し訳ないという思いでした。
Q:作家によっては嫌がることかもしれないですね。
A:確かに嫌がる人もいます。
というか大部分ではないでしょうか。
特に自分の芸術性にこだわる作家さんならなおさらでしょう。
この時の私としては、自分の芸術性がどうのと言える立場ではなかったので、できるだけ皆さんに楽しんでいただきたいという思いしかありませんでした。
これらのことは今となっては笑い話ですが、ただ、当時から今に至るまで納得できない意見もありました。
Q:どんな意見ですか?
A:「作品を語る立場にある人が、作品を、制作をしてはけない」という意見です。
前述のように、私は美術関係の出版社で、展覧会の紹介記事などを描いていたし、また、初個展の半年ほど前から、別な出版社からも美術記事の依頼を受けていました。
Q:それはどんな記事だったんですか。
A:今のインタビュアーさんと似たような仕事です。
要するに、現役のアーティストを取材して、その作品を語るというものです。
評論では決してないのですが、こうした仕事をしていると周囲からは「美術評論家」と誤解して呼ばれること多かったです。
Q:それが納得のいかない意見の引き金だったのですか。
A:はい、そんな私が作品を作って個展している状況を見て、あるお客さんから「あなたは作品を「評論する」立場の人なんだから、自分が制作してしまうと冷静に語れなくなる。
なので、以後は制作や発表はしてはいけない」と一方的に言う人もいました。
これには多大なる疑問を感じました。
なぜ、仮に私が評論家だとした場合でも、作品を作ってはいけないのだろうか。
例えば野球評論家は元野球選手、つまり野球を実践していた人も多い。
料理評論家はそもそも料理が作れなければなれません。
なのに、なぜ美術だけは、評論する人は制作することがあってはいけないのでしょうか。
実はこのような意見を言う人は複数いたのですが、その中の一人は「父からそう教えられた」と言っていました。
Q:ご自身の意見ではないんですね。
A:そうです。
そんな状態かもわかるように、確固とした理由もなしに言われていることに過ぎないのではないか、と思うようになりました。
Q:その後、宮島さんは現在までその意見は許容していないわけですね。
A:もちろんです。
人は、複数の専門を持ってはいけない、というようなことを、大昔にはよく言われたようですが、歴史上、複数の専門職を持って成功した人だっている。
特に現在はなおさらではないかと思います。
2020年に差し掛かろうとしている現在は、今までにないスピードで変化が起ころうとしている時代です。
何が起こり、そして何がだめになるかわからない時代。
そうした中で、複数の選択肢を持っている方が強いのではないかと思うのです。