TOPTalk : 対談

特別企画 - 「健康とアートを結ぶ会」主催「健康をめざすアート展 」
出品作家に聴く♪
3月初旬の晴れた日、潮風を受けながら大磯で住谷重光さんに「描くこと」「観ること」について語っていただきました!

住谷重光さん


◇住谷重光(すみたにしげみつ)さんプロフィール
画家
1950年 兵庫県神戸市生まれ、現在は神奈川県大磯町在住
1977年 国立東京芸術大学油画卒業
湘の会主宰
小田原カルチャーセンター講師
あらたま会会員
一般財団法人「健康とアートを結ぶ会」支援アーティスト

 
住谷重光さん
 
 

住谷重光さん「描くこと」「観ること」を語る!


宮島通信編集部
(以後Q):今日は画家の立場から「描くこと」「観ること」について、お聞かせください。まず、住谷さんは、いつ頃から絵を描き始めたのですか?
住谷重光さん(以後A):記憶では3歳前後から、紙だけではなく家の壁にも描いていました。後で母が雑巾で拭き消してようですが、そのことを怒らずに私を見守ってくれたことには、今考えてもありがたいことでした。

Q:ご家族を含め血縁関係にアート系の方はいらっしゃいましたか?
A:誰もいませんが、好んで母がいつも絵を家に飾っていました。当時は第二次世界大戦が終わって間もない頃で日本全体が貧しく、子どもが家事の手伝いをするのは当たり前。私も朝は鶏の卵をとったり、夜には枯れ木を集めてお風呂を沸かしたりしていました。それと同じ様な感覚で自然に絵を描いていたのだと思います。だから、絵画教室へ行ったことはなく、他に好きな遊びがなかったので、小学校に入るまで毎日、画用紙2枚に絵を描くのが私の喜びでした。

住谷重光さん

Q:本格的に画家を目指したのは、いつ頃ですか?
A:半世紀以上前のことです。高校1年の時に大阪の美術館で見た坂本繁二郎さんの「柿の絵」との出会いが、画家への道を決定付けました。 それは葉をつけたままの柿が数個描かれている地味な作品でしたが、観入ってしまい、観るほどに味わいが増し、それまで美しく装飾的なのが絵だと考えていた私は衝撃を受け、帰宅後も強烈な印象が消えず、翌週、翌々週、その1枚を見るためだけに神戸から大阪に通いました。 それまでに観たことのなかった繁二郎さんのリアリティに惹かれ、気がついたら絵に「fall in love」、ハマってしまったのです(笑)。

Q:坂本繁二郎作品の魅力は?
A:繁二郎さんは、自然を対象に描くことが多かったのですが、自己表現に走るのではなく、己の存在を消して「自然をどう描くか」「自分がなくなっても自然がある」そんな感覚で筆を走らせていたと私には観えるのです。 回顧展で観た87歳で亡くなる1年程前に描いた「月光」は本当に素晴らしく、作品の中には宇宙をはじめとした森羅万象、光も空気も確かにあり、繁二郎さんと対象の境界が完全に溶けてしまっているようで、理屈なく感動しました。 きっと、対するもののあるがままの姿を描く心が作品にこもっているのだと思います。考えれば、魅力的な作品を描き続けたセザンヌもゴッホも繁二郎さんと同じ心境で筆をとっていたのかもしれません。

住谷重光さん

Q:ご自身の画家への道は順調でしたか?
A:なんとも言えません。芸大卒業後、経済的なこともあり、今でいうサブカルチャー系の仕事を10年ぐらいしていました。日本経済がバブルに向かう好況感を伴った時代だったこともあり、デザインとはあまり縁がなかった私も、そうした出版系の仕事に就くことができたのです。ただし、この時期、自分が描けなくても絵を観ることはやめず、気になる展覧会や友人の作品を観たり、DM制作等で絵に関わっていたのは勉強になりました。

Q:本格的に住谷さんが描き始めたのは、いつ頃ですか?
A:幸いなことに素敵な出会いと良縁に恵まれた30代中盤過ぎから、現在のような絵画制作を軸にした生活を営むことができるようになりました。

Q:住谷さんにとって描くこととは?
A:例えると、山登りに似ている気がします。遠くから山を観ても分からないことが、麓まで行くと次が観え、その後の登山路や頂上では、また違うものが観えます。これって行為の始まりから結果まで途切れることなく連綿と繋がっていることで、私にとっての絵を描く感覚と同じです。ただ…

ご近所のお寺

Q:ただ…?
A:描く時は知らぬ間に主体が顔を出し、のめり込むとどうしても絵が観えなくなります。それでは具合が悪いので、私は描いていると逆の立場、観る側に立ちたくなります。

Q:制作中の自作品の客観視ですか?
A:そうです。私にとっては描く自分と観る自分が同時に必要です。言い換えれば「描くこと」と「観ること」に境はなく、他の様々な現象も含め、循環している世の繋がりの中から絵は生まれると私は考えています。

Q:それをどのようなお気持ちで描いていますか?
A:繁二郎さんの影響大ですが、自己表現と言うより、自分自身を消し去り、自然の源流に触れる気持ちで描いています。

Q:モチーフは何でしょう?
A:自然の四季、現象、主に水の流れをテーマにしています。海、川、樹木、すべて水の流れが形成しています。光の美しい午前中は出来るだけ自然の中で描くようにしています。それをきっかけに、午後からは自然の流れを翻訳するようにアトリエで抽象的な作品を描きます。あと若い頃から環境絵画を描きたいと思っていました。

住谷重光さん

Q:環境絵画?
A:大々的なパブリックアートではなく、観た時に空気、呼吸、そのリズムまで表現していて、観客を優しく包む音楽のようなセザンヌの20号の絵。あれが私にとっての環境絵画だと思っています。たった1枚の小さな絵でも、そうした表現ができる。それを目指したいですね。とは言いつつ、好きなことでも絵を描くことはかなりしんどいです。スケッチのための道具は重いし、天気にも左右されて冬は寒いし、夏は暑くて汗だらけ(笑)。でもね、それを体験することが大事なことだと思います。楽に描けたら、とても大切なものが絵から落ちる気がしますからね。

Q:今日はありがとうございました。

 

終わり


取材日:2022年3月11日

(構成・撮影 関 幸貴)

 
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