TOPRoad : つれtakeロード

Road : つれtakeロード

 

小田原

大寒の中、程よい日の差す2月上旬の日、宮島永太良は神奈川県小田原の地を再び訪れた。前回の目黒通り沿いに続き、こちらも宮島が長年住んでいたところだ。というより、ここで生まれ育っているので、ただ住んでいたというのとは話が違う。というわけで今回も、宮島が幼い頃から親しんでいたものも中心に見てみたい。
「小田原は今、やや注目が集まっています。今年のNHK大河ドラマでは鎌倉時代が取り上げていますが、源頼朝の初期の出兵である小田原・石橋山の戦いもすでに描かれました。苦戦はしましたが、結果として源氏、北条氏が鎌倉幕府を営んでいく出発点が、この小田原にあったとも言えるでしょう」

小田原城

小田原の玄関といえばます小田原駅。ここには小田原が生んだ偉人・二宮金次郎(後の尊徳)の像がある。
「金次郎は神奈川県西部の栢山村出身ですが、現在は小田原市の一部なので、小田原がホームタウンと言ってよいでしょう。金次郎像は昔から全国の小学校にありましたが、最近は今は本を読みながら歩くのは危ないということで、農作業をしている姿などに変化しているようです」。
小田原市内の小学校でも数年前、はじめて農作業をしている金次郎像が登場したが、その学校の校長は宮島の小学校時代の担任、像を作ったのも知人の彫刻家だったというのも感動である。

小田原駅二宮金次郎像

最近の小田原での変化と言えば、宮島も子供の頃から親しんだ市民会館が昨年9月閉館になったことだ。昭和37年の建設だが、当時としては六角形の窓とピンクの壁面を基調とした斬新なものだった。しかし閉館となれば解体されてしまう可能性もあるが、そうなる前にもう一度見たいという思いがあった。この特徴的な建物はやはり小田原を象徴するもので、無くなってしまうとなればとても残念だ。

市民会館

また、既に無くなってしまった建築物としては、市民会館と同じ本町地区に存在した消防署の展望台がある。「消防署の展望台といえば、昔は隣の電力会社の電波塔とともに、小田原市内では一番高い二本の塔として並び、小田原の遠景を形作っていました。しかし数年前、消防署本部が移転したことにより、私が知らぬ間に解体されてしまっていました。今は隣の電波塔しか残っていません」

電波塔

というわけで今や小田原で唯一の高塔となった電波塔も見てみた。前回の目黒通りにあるものと比べるといくらかスリムで地味だが、宮島は子供の頃、なぜかこれをチャイムを鳴らす塔と勘違いしていたと言う。
「私が未成年の頃、小田原では毎日『正午、夜9時、夜10時』という独特な時間にチャイムが鳴っていました。チャイムというと学校などでも流れる「ラ、ファ、ソ、ド/ド、ソ、ラ、ファ」を繰り返すのが一般的ですが、小田原のチャイムはそれをベースに少し編曲されたものでした」

電波塔

通常、市役所等が時を知らせるための時報、またニュース等は市内の至る所にあるスピーカーから流れるもので、小田原でもそれは例外ではなかった。しかし子供の頃の宮島は、なぜかこの電波塔から大音を発していると思ったのは、何かの理由があったのだろう。塔の受信部も、昔はラッパのような形をしていたというのだ。
この電波塔と、先程の市民会館の間ぐらいには鐘つき堂がある。特にお寺などがあるわけでない独立した鐘つき堂である。こちらはこちらで、毎日朝の6時と夜の6時に鐘を鳴らしていたそうだ。また大晦日から元旦にかけての除夜の鐘では今も活躍している。除夜の鐘はともかく、朝晩6時の鐘は、幼い宮島にとって少々怖かったという。

鐘つき堂

本町地区を進むと「宮小路」という名の、小田原を代表する繁華街がある。昔から地元の、あるいは近隣の町の酒好きが行く街として有名だ。元殿さまキングスの宮路オサムさんが、若き日にこの街で流しをやっていたと言われ、本人も証言している。宮路さんの芸名も、まさにこの宮小路から命名したそうだ。

宮小路

その昔は鎌倉あたりからも来訪客がある等、かなり栄えていた酒場だったが、残念ながら、かつてよりは店も減っているようだ。やはりほとんどが駅の近くに集中してしまったのだろう。一極集中は全国の姿の縮図のように見えてならない。

宮小路

この宮小路のほぼ中央には松原神社がある。宮島が小田原に住んでいたころ、その地の氏神となっている神社だった。

松原神社

「我が家ではだるまを祭る習慣がありましたが、正月に初詣に来ると、この神社で古いだるまをお焚き上げに出し、新しいだるまを買って行くのが毎年恒例になっていました」
また毎年5月には「小田原北條五代祭り」があり、この神社の界隈でも縁日で賑わっていたのが忘れられないという。今回はかなり年を経ての参拝となるが、こうして来てみると、昔よく参拝していたのが昨日のことのように思い出される。やはり神の前に、時の隔たりは無きに等しいのだろうか。
細かい所は変化しても、土地の魂そのものは変わっていない。そんな故郷の姿をあらためて感じ取った旅であった。

(文・写真 宮島永太良)

 
Copyright © 2010- Eitaroh Miyajima. All Rights Reserved.